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第一話 魔王討伐を終えた後、職を失った勇者のお話

 少し、彼女たちと出会うまでについて詳しく説明しておこう。


 時間は少し戻って、魔王討伐を終えた後のことだ。

 俺はカントリー王国の王城で報酬を受け取っていた。


「え? これだけ?」


 お姫様からもらった麻袋には、魔王討伐の報酬が入っていた。

 金貨はおよそ千枚くらいだろうか。


 数年は生きていけるが、今後何十年を生きるには全然足りない金額である。


「はい。これが今回の報酬となります」


 お姫様は事務的にそう言って麻袋を差し出してきた。

 そっけない態度である。


 もともと、あまり話す仲でもない。

 俺は所詮雇われの身で、城に勤めている兵士ではないのだ……態度がよそよそしいのは、しょうがないことなのだろう。


 俺にとっても姫様は、魔王討伐のクエストを発注していた雇い主でしかない。

 今までサポートをしてもらっていたので度々顔を合わせることはあったが、結局親密になることはなかった。


 とはいえ、魔王を討伐したのだからもう少し喜んでくれてもいいだろうに。

 そうでなくても、報酬にもっと色をつけてほしかった。


 いや、愛想とかはどうでもいいから、報酬を上乗せしてもらえないだろうか。


「あの……申し訳ないんだけど、少なくないですか?」


「クエスト発注書に記載されている額以上はありますが」


「いやいや、討伐した場合は働きに応じて報酬を上乗せするって書かれてるますけど? 確かに少しは上乗せされてるけど、これだけですか?」


「はぁ……そうですが」


 姫様は興味なさそうに息をついているが、それでは困るのだ。


「あまり言いたくないんですけど……俺、怪我してるんですよ? もう一生戦えない体になったんです。せめて数倍くらいもらえないと、やっていけません」


 魔王討伐はとても無理をして果たしたことなのだ。

 これだけでは見合わない、というのが俺の意見である。


「……ギルドの討伐報酬の規定には反しておりませんので」


「ギルドの規定!? それはそのへんの魔物を討伐した時の規定ですよっ」


「魔王も、魔物の一種ではないのですか?」


「おいおい……魔物と魔王を一緒しないでくださいよ」


「申し訳ありませんが、文句はギルドに言ってください。ギルドが仲介役としてあなたの意見を聞いてくれるでしょう……こちらは、ギルドからの意見を待ちたいと思います。その際に更なる報酬の支払い命令があれば、お支払いするということで」


「ちょっ……姫様!」


 これ以上、彼女は取り合ってくれなかった。

 謁見の時間は強制的に終了させられ、俺は城を追い出されてしまう。


「参ったな……」


 報酬がこれだけとなれば、今後は仕事を探さないといけないだろう。


 しかし、今まで俺は勇者として今までを生きてきた。

 魔王を討伐することだけが、俺の目標だった。


 両親を亡くして以降、孤児院で育った幼少期から俺は戦うことしかやってこなかった。

 それ以外のことはできない。魔王との対決で怪我をした以上、戦うことも難しくなった。


 それでも生きるためにはお金が必要だ。

 何か、俺にもできる仕事を探さなくてはならない。


 あるいは、今あるお金を元手に何か稼ぐ手段を考えた方がいいのだろうか……負傷した体もどうにか戦えるように癒したい。回復の魔法アイテムも必要だろう。


 なんとかしないと本当にまずい。


 とりあえず、まずは報酬の額についてはギルドに相談してみた。

 でも、あまり意味はない気がした。


 相手が王族なので、ギルドも強く文句を言えないそうである。

 報酬の額も、討伐報酬としては十分というのが、ギルドの意見だった。


「……くそっ」


 せっかく魔王を討伐したのに、まるで俺が卑しく金をせびっているようにさえ感じてしまった。


 気分が悪くなる。

 そして、悪いことは幾つも重なるわけで。


「は? 孤児院が潰れそう!?」


 俺がかつて生活していた孤児院に久しぶりに顔を出すと、院長からそんなことを聞かされた。


 魔王率いる魔族のせいで近年は被害が多発しており、孤児が多かったらしい。


 受け入れ可能な人数は大幅に越えていたが、放っておけなくて借金をしてまで無理に面倒を見ていたようだ。


 俺が魔王を討伐したので、孤児も減って今後は経営状態も改善する見込みはあるようだが……今を生活するだけのお金がないと言われてしまった。


 お世話になっていた場所である。

 身寄りのなかった俺を、しっかりと育ててくれた家なのだ。


「金貨千枚あれば……大丈夫なんですね?」


 必要だと言われたのは、金貨千枚。

 それだけあれば借金も返せて、ギリギリ子供たちを育てることもできるようだ。


 当然、俺は持っているお金を全てを寄付した。


 俺が生きているのは、この孤児院があったおかげなのだ……ためらいはなかった。


 しかし、そうなってしまうと俺が生活するだけのお金がないわけで。


「まぁ、どこかには住み込みで雇ってくれる場所もあるだろ……」


 とはいえ、この時の俺はまだ楽観的だった。

   

 どこかのお店で働けば、どうにかなるとばかり思っていたのである。

 ずっと旅しかしていなかったので、常識が俺には欠けている。


 何もできない身ではあるが、仕事くらいあるだろうと勝手に思っていたのだ。


 今の世の中、就職するのがどんなに難しいことか分かっていなかった。

 そのことを、俺はすぐに思い知らされることになる。


「あまり動けない? じゃあ無理だ、うちは結構力仕事があるからね。申し訳ないが、よそに行っておくれ」


 武器の知識があったので、武器屋ならいけると思った。

 しかし、知識だけではダメだったようだ。


「計算ができない? ちょっと難しいね……すまないが、よそへ行ってくれ」


 座りっぱなしの店員ならいけると思った。

 しかし、頭が良くないので、それも無理なようだった。


「武器が振れないんじゃ、指導教官なんて無理ですよ……諦めてください」


 育成所の戦闘指導ならいけると思った。

 しかし、体がボロボロだからという理由で、断られてしまった。


 それからは色んなところに頭を下げて仕事させてほしいとお願いした。

 それでも色の良い返事はもらえなかった。


 魔王を討伐したので、みんな俺に敬意は払ってくれている。

 しかし、仕事というのは金銭が発生するわけで。


 足手まといは要らないと、彼らはそう言わざるを得ないのだ。


「――おなか、空いたな」


 気付けば数日が経っていた。

 その間、俺は何も食べていない。


 飲み水だけは道端の井戸でどうにかなるが、食べ物だけはどうにもならなかった。


 町の外に出たら自生している果物や食べられる野草、食肉になる動物もいるだろうが……魔物も出るので、今の俺が出ても自殺行為である。


「……くそっ」


 英雄から一転、飢えに苦しむ自分がとても惨めだった。


 いっそのこと、このまま死んでしまった方が……まだ、勇者としてはいいのだろうか。

 伝説は終わったのだ。俺の人生もここで終われば、少しは有終の美を飾れるかもしれない。


 これ以上醜態を晒すくらいなら、このまま――


 そんなことを考えていた時である。



「……勇者様、ですね?」



 ――彼女と、出会ったのは。

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