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第十六話 ロリサキュバスはおよーふくをぬぎたがる

 そんなこんなでサキちゃんとおままごとをすることになった。

 

「パパはね、だ……だ、んにゃ? だんにゃさま!」


「『旦那様』でしょ? だったらサキは、お嫁さん役?」


「うん! サキ、およめさんやる!」


 そう言って彼女は、二つほど人形を持ってきた。

 かわいい猫型の人形である。そういえば俺がこの家に来た時も、彼女はこの人形で遊んでいた。


 普段からよく使っているのだろう。

 お人形には年季があるように見えた。


「こっちのタマちゃんは、サキとパパのこども!」


「じゃあ、こっちの猫は二番目の子供ってこと?」


「ふぇ? ミャーちゃんはね、となりのおうちのおよめさんだよ?」


 まさかの登場人物に驚きを隠せなかった。


「え? あ、そっか。うん、分かった」


 とりあえず役割は覚えたので、頷いてみる。

 そうするとサキちゃんは、元気よく手を上げておままごとの開始を告げた。


「はーい! じゃあ、だんにゃさまはただいまーしてください!」


 ただいまーする、とは恐らく外から帰ってきた振りをしろということなのだろう。

 言われた通り、扉を開けていったん部屋の外に出た。


 外とはいってもこの家は狭いので、すぐにキッチンがある。

 キッチンではルーラが機嫌良さそうに料理をしていた。


「サキ様と、おままごとですか?」


 どうやら俺たちの会話も聞こえていたらしい。


「恥ずかしがらず、きちんと楽しんでくださいませ。それもご主人様のお仕事です」


「わ、分かってる」


「ご理解なさっているのなら結構です……お昼ごはんまでには、きちんとおなかを空かせておいてくださいね?」


 そこまで会話したところで、サキちゃんからお呼びがかかった。


「パパ、はやく~!」


 慌てて部屋の方に戻って、俺は扉をガチャリと開ける。


「ただいまーっ」


 そして見えたのは、何故か正座して神妙な顔をしているサキちゃんだった。


 え? なんで?


「あなた……このおんなは、だれ?」


 彼女が指さしていたのは猫型の人形。名前はミャーちゃん。

 おままごとの配役では、確か……


「隣のおうちの、お嫁さん?」


 そう。謎の登場人物である。

 俺がそう答えると、サキちゃんは深々とため息をついた。


「違うもーん。ミャーちゃんは、どろぼーねこでしょ! このうわきものっ」


「えぇ……そういう設定なの?」


「とぼけるなんて、さいてー……まさか、あなたがうわきしていただなんてっ」


 想定外のおままごとである。

 初っ端から家庭崩壊の危機だった。


 さて、困った。さっきまでの俺なら、すぐにおままごとの中断を申し出ただろう。

 しかし、直前にルーラが『楽しめ』と釘を刺していた。


 雇用主には逆らえない。

 ここは設定に合わせて浮気した旦那様を演じるべきなのだろう。


 だから俺は、サキちゃんに土下座した。


「ごめんなさい、出来心だったんです」


「……さいてー」


 8歳の女の子に見下ろされているという構図は、なかなか心にくるものがあった。


 というかこれ、本当に楽しいのだろうか?

 よく分からないまま、おままごとが続く。


「はぁ……サキとけっこんするまえから、うわきしてたんでしょっ? だったら、タマちゃんがサキのこどもなのかも、わかんないもん」


 設定が重いな。


 というか、俺が浮気しててもサキちゃんが産んだ子供なら、サキちゃんの子供で間違いないと思う……まぁ、子供が産まれる仕組みとかはまだよく分かってないのだろう。ただ聞いた通りのセリフを口にしているだけかもしれない。


 いったい終着点はどうなるのだろう?


「あなたは……どっちを、あいしているのっ?」


「もちろん、サキちゃんを愛しています」


「うそよっ! しんじないもーん」


 神妙な演技をしているところ悪いが、口調が幼くてかわいかった。

 こんなに無垢な女の子が、どうしてドロドロのおままごとをしようと思ったのか。


 その答えは――彼女が『サキュバス』だから、である。


「どっちをあいしているかは、あなたのからだにきくっ……サキとどろぼーねこ、どっちがいいかえらんでっ」


 そしてサキちゃんは服を脱ぎ始めた。

 本日二度目だった。


 うん、流石にこれを楽しむほど俺の心は歪んでいない。


「ストップ! サキちゃん、このおままごとやっぱりおかしいと思うんだけどっ」


「でもね、サキはいつも、このおままごとやってるのみてたよっ?」


「サキュバスめぇ……こんな小さい子の前で変なことするなよ!」


 いや、あの村には女性しかいないので、一種の冗談みたいな感じで女の子同士がやっていたのだろうとは思う。


 だけど、サキちゃんが間違った遊びを覚えているのは、サキュバスがそういう卑猥な方向性でしか遊んでいなかったからなのだ。


「とりあえず、『遊び』でお洋服は脱ぎません」


「? サキ、およーふくぬぐあそびしか、わかんないよ?」


「そっか……でも脱いだらダメだからね? 女の子がお洋服脱いでもいいのは、お風呂場だけだから」


「うん、わかった! サキ、およーふくぬがないっ」


 幸いなことにサキちゃんはとても素直で聞き分けの良い女の子である。

 注意すると反抗せずに頷いてくれた。


 純粋な笑顔がかわいかった。


「じゃあ、なにしてあそぶのっ? あ! パパ、しゃせーする!?」


 あと、突然口にする『しゃせー』の言葉も、いつか訂正したいものだ。


「しゃせーはしません」


「そうですかっ。だったら、かくれんぼしてあげるっ」


 無邪気な笑顔に、頬が緩む。

 この子といると気分が和んだ。


 それからは、二人で仲良く遊んだ。

 サキちゃんは四六時中笑いっぱなしで、楽しそうだった。


 つられて、俺も笑っていた。

 とても楽しい時間を過ごすことができたのである――

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