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プロローグ 伝説は終わっても人生は終わらない

 勇者とは、魔王が存在するから勇者なのである。

 では、その魔王を倒してしまった後、勇者はどうなると思う?


 答えは『無職になる』だ。


 今までは魔王討伐のための費用として金銭をいただいていた。『魔王討伐』こそが仕事だったとも言えるだろう。


 結構な額をもらっていたので生活に困ることはなかった。


 しかし、そのお金も魔王がいなければ当然もらえるわけがないのだ。


 もちろん、魔王を討伐して世界は平和になった。それは喜ばしいことである。

 国からも報酬はきちんともらった。


 想定外だったのは、報酬の額が想像以上に少なかったことである。


 てっきり、余生を何不自由なく暮らせる程度の報酬はもらえると思っていた。

 だが、もらえたのは数年をどうにか生き抜く程度の金額でしかなかった。


 しかもその報酬ですら、とある出来事のせいで全て失ってしまった。


 俺は路頭に迷った。

 とにかくお金がなかったのである。


 そして、就ける職業もなかった。


 勇者と名乗っていたぐらいなのだから腕っぷしには自信があったが、魔王との戦闘で負傷していたのでもう戦えない体になっている。


 冒険者として戦闘で生計を立てることはもちろん、肉体労働ですらできなくなっていた。


 ずっと戦ってばかりだったので、何か技術を持っているわけでもない。頭だって良くないし、今まで旅しかしていないため常識も少し足りない。


 そんな俺を雇ってくれる仕事場は、残念ながらなかった。


 お先真っ暗である。


 数日間、何も食べない日々が続いた。

 ともすれば勇者として旅をしていた時よりも、きつかった。


 挙句の果てには街中で倒れてしまい、最早物乞いにでもなるしかない状態だった。


 そんな時に――俺は、一つの求人と出会ったのだ。


「勇者様、甘やかされるだけのたいへんなお仕事がありますが、どうしますか?」


 物陰で倒れている俺に、手を差し伸べてくれたのはメイド服を着た少女だった。


「し、ごと……?」


「はい。朝は昼過ぎまで寝て、ごはんは好きなものだけを食べて、お小遣いで豪遊して、お世話されるようなお仕事です……とても重労働かもしれません」


 いやいや、重労働ではないよ。

 そう言いたかったが、お腹が空きすぎてこの時の俺は何も言うことができなかった。


「これから、勇者様のお仕事は『無職』になります。それでもよろしければ、雇わせていただけませんか?」


「……ごはん、食べたい」


「おっと。そういえばおにぎりがここにありますね……勇者様が頷いてくれたら、あげますよ?」


「うんっ。分かった、何でもやる……だから、ごはんをっ」


 恥も外聞もない。

 プライドなんて何度ももらった不採用連絡に折られていた。


 例え相手が十歳そこそこの幼女だったとしても、俺はごはんをもらえるのなら何だってするしかなかったのだ。


「では、採用ということで……どうぞ、お召し上がりくださいませ」


 俺が頷いたのを見て、彼女は微笑みながらおにぎりをくれた。

 数日振りに食べたおにぎりは、今まで食べたどんな食べ物よりも美味しかった。





 かくして俺は『無職』となったのである。

 それからの俺は――とても不思議な毎日を送ることになった。


「ねぇ、下僕……あなたは私の父を殺したわ。だから、あなたには私を幸せにする義務があると、そう思わないかしら?」


 俺が倒した魔王の娘は、そう言いながら俺に構ってほしそうに甘えてきた。


「おにーちゃんっ。あのね、たまーに世界とか滅ぼしたくなっちゃうけど、おにーちゃんがなでなでしてくれるなら、我慢してあげるよ?」


 災厄と称された邪神は、世界を滅ぼすと脅迫してまで頭を撫でさせようとしてきた。


「おかえりりなさい、パパ! ごはんにしますか? おふろにしますか? それとも、しゃせーしますかっ?」


 サキュバスで唯一の生き残りである幼女は、毎日のように俺にべたべたとくっついてきた。


「ご主人様、勘違いなさないでください。わたくしはあなた様が大好きだから、こうやってお世話しているのです。昔助けてもらったから、なんて義務感ではないので、誤解しないでくださいませ」


 勇者時代、俺が命を救った村娘は、好意百パーセントの意味不明なツンデレをしながら、俺の面倒を見てくれた。


 何もしないでいい。


 ただそこにいてくれるだけでいい。


 働いたらダメ。


 頑張らないで。


 そう言われ続けて、俺は彼女たちと余生を送ることになったのだ。





 ――これは、魔王を討伐して無職になった元勇者の物語。

 四人の幼女に甘やかされるだけの、スローでまったりなファンタジーライフである。

八神鏡と申します。

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