夢からの現実
恐怖に驚き、目を見開いて飛び起きる。先程の夢で最後に見た自分の首元が脳裏に焼きついたまま。
私は――ルクシア=ミルヴェーレンは、自分の首元を触る。離れているはずだった首元は、きちんと繋がったままで、尋常じゃない汗の量に、再び私を驚かせる。
「そっか、私は……」
やはり私は転生者だった。それは今でも、誇らしい事だとは思う。でも、自分の考えていた人生の終了とは違うおぞましいものだった。
体中がギシギシと、立つ事が不可能な激痛。意識のあるまま首を潰される感覚。全部、私の中に残っている。
再度吐きそうになる。幸いな事に、胃に何も残っていないのか、出るのは呻き声だけであった。
体の震えが止まらない。痛みを思い出す度に、震えは大きくなって行く。一度震え出したら、体の震えは留まる事を知らない。
暖を取ろうと、フラフラと立ち上がるも、倒れるようにバランスを崩し、ベッドから転がり落ちる。体が恐怖で強張っていて、頭から落ちたはず……でも不思議と痛くはない。
「起きてるか。入るぞ」
ドアがノックされるが、了承もなしに開かれる。
「……なんだその恰好は」
父は、ベッドから転がり落ちた私を、侮蔑の混じった眼つきで睨む。
「かr―ケホッケッ」
口内が乾燥して、うまく喋れない。震えているせいで、体が硬くなってるのだろうか。
「ふん。さっさと来い。儀式の続きだ」
「ま、まっt―あぎゅ」
まだ立ち上がるには時間がかかるようで、転んでしまった。顔から地面へ突っ込んだのに、まったく痛くはないのはなんなのだろうか。
「……」
父は地面と一緒の私には一瞥もくれず、無言のまま儀式の間へと進んでいく。こういう時の父は怒っている。
ゆっくりと、固まった体を動かし、足を引きずるように儀式の間へと到着する。
「遅い。さっさと儀式の続きを始めるぞ」
イライラが納まらないようで、顔には怒りが浮かんでいた。
そんな父の顔を見なかった事にして、私は今1度魔本に魔力を注ぎ、詠唱を行う。
儀式――それはこの世界中で行われる成人の儀。人は10歳になると、自分の能力値を知るために魔術の付与された本、魔本を使って自身の能力値を知るのだ。それに加えて、魔法を初めて使う事でもある。とても意味のある重要な儀式。
その重要な儀式を、私は嘔吐と気絶という形で終わらせてしまった訳だ。父が怒るのも無理はない。増してや、それが族長の娘という立場ならば尚更だ。
私の詠唱が終わると、魔本はゆっくりと輝きを失い、文字が焼き出される。
H P:13/13 M P:38/38(-10)
ATK:17 DEF:8 MATK:14 MDFE:17 SPD:6 HIT:15% CRI:9%
VIT:4 SIZ:9 STR:5 DEX:10 INT:16 MIN:9
WIT:36 APP:14 EDU:15 LUCK:9
NOTE:魂に前世の記憶を混入 1/10解放済み
Mastered Magic…[Intensity]Effect:自身のMPを永続的に一定消費し、消費したMPの2倍を自分のSTRへ永続的に加算する。
そこに記述されていたのは、私の最大MPが減少した事と、魔法の効果であった。
この魔法は……ハズレだ。
「どうしたルクシア。魔法の詳細を教えんか」
魔法――それは、人が人生で1度だけ覚えるもの。儀式を行い覚えるが、使ってみないと魔法名も効果も不明。詳細は覚えた本人か後世に残すのみ。そして、覚え直す事はできない。
「……黙っていないで早く言わないか!」
再び父の声が荒くなってくる。父の感情は今怒りに満ちているのだろう。
私は観念して、魔法の詳細を話す事にした。
「魔法の説明ですが……魔法名は[インテンシティ]と言い、自身のMPを永続的に消費して、消費したMPの2倍を自分のSTRへ永続的に加算する魔法と書かれています」
私の説明を聞いていく内に、父の怒りは徐々に納まっていったようだった。説明を反芻するかのように、瞼を閉じて何度も頷いている。
「どう……ですか?」
先程もであったが、父に対して普段使わない敬語で話していた。
「そうかそうか……ご苦労だった。今日はもう寝なさい」
父はそう告げると、背中を向けて儀式の間から出ていく。
だが、私は見てしまった。私を見つめる表情が、蔑んでいる。価値なんてまるで無い、石ころを見る、見下したものを私に向けていた。
悪い予感を抱きながらも、私は自室に戻りベッドへ入る。
父のあの目を忘れようと、必死に目を瞑り、眠りの世界へと私は逃げる。
次の日の朝、目が覚めると私は屋敷から出る事を禁じられてしまった。
この日限りでなく永遠に。外へ出る事は許されない。
今日から鳥籠に入った小鳥へ、私は変わる。
ちょっと投稿遅れました。決してMinecraftしていた訳じゃないんです。……すいませんマルチ楽しいです。