表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

前世はゴリラ


 彼を知るものは必ずこういう「ゴリラ」と。



 決して本意による悪口などではなく、彼の外見的な印象がそうさせてしまうからだ。



 恵まれた体格に、物理法則を捻じ曲げた様な筋肉の付き方、毛深い体に角刈り頭。



 彼をみて「ゴリラ」と言わずしてなんというのだろうか。



 それが、からかわれる原因や、イジメの原因になっているのならば問題にもなるだろう。しかし彼本人が、自己紹介をする際に、自分をゴリラと呼んでくれと言うのだから、そう呼ぶしかないのだ。



 ある日、彼の人生は唐突に終わってしまう。



  だが、彼の人生の最後はとても満足できるようなものでは無かった。



  ゴリラの人生最後の日。その日は中間試験の実施日であり、それを終えた放課後の事である。



 ゴリラと友人は明日も続くテストに向けて、勉強会なるものを行うとしていた。



「なぁゴリラ、明日のテスト勉強どこでやんべ?」



「あれじゃないか? どっかのレストランみたいな飲食店で」



「店どーすんだよ。この間追い出されたじゃんか」



 ゴリラと会話をしているのは、見た目が対象的なヤンキーの様な男であった。



  一般的な高校生と言える体格であり、茶髪に着崩した制服。



 ゴリラが服を着たゴリラであるなら、友人はドロップアウトしそうなヤンキーであった。



「それは……仕方ないだろう。頭の良いお前と違って、俺の課題が終わらないんだから」



「頭なんて良くねーよ。授業聴いてノート取ってりゃ平均点より上は取れんの」



 どうやらヤンキーは見た目と違って、酷く一般的な生徒の様だった。



「それは勉強の出来る奴のセリフだ。頭の悪い俺と違って、お前は頭良いんだから」



 見た目と中身は反比例とはよく言うが、ヤンキーの男は格好以外は優秀な生徒であるようだった。



「そりゃあ、ゴリラが授業中にバナナ食って寝てるからだろーがよ。テスト前の週に1回でも、授業中バナナ食ってなかった事あったか?」



  ゴリラは好物でさえもゴリラらしい。キャラ付けなのだろうか!



「そりゃあ当たり前だ。授業は食事をする時間じゃないからな」



「お前全部の授業で食ってたじゃねぇか! 毎回匂うんだよ教室中に!」



 ゴリラはどこまでもゴリラであった。



「筋トレとバナナは相性がいいんだぞ?」



「いや知らんて。つーか筋トレよりテスト勉強だよ、テスト勉強」  



「俺の今年の目標を知っているか? 筋肉向上だ。テストよりも筋肉だ!!」



 ゴリラは脳筋ゴリラでもあるようだった。



「いやだから知らんて。このままだと留年すんぞ? 来年で俺ら受験だべ?」



「テストなんぞに筋肉は引かぬ!」



 なんでこのゴリラ進級できたの。



「はぁ……バナナやるからさっさと勉強すんぞ」



「ウホッ。それを待っていたんだ」



 誰かこのゴリラもうどうにかして。



 そんな二人の(?)会話を遮るかのように、パァーとクラクションの音が周囲を切り裂く。



 突然、一人と一匹は音の方へと全力で走り出す。トラックの前に飛び出した子供を救わんとする為に。



「俺に任せとけ!うぉおおおおお」



 縄張りを守るかのように、全力で走り出し叫ぶ姿は、まるで本物のゴリラのようであった。



 急ブレーキをかけるトラックと、怯えて動けない子供の間に、人を超えた速さでゴリラは割り込む。



 ガゴンッ!と大きな音が鳴り、残ったのは、焼けたゴムの臭いに、フロントバンパーのひしゃげたトラック、そして仁王立ちするゴリラであった。



「大丈夫か少年?」



 何が起こったのか理解できない少年に、ゴリラは優しく話しかける。何事も無かったかの様に。



「だ、大丈夫です……あ、ありがとうございました。」



 困惑しながらも少年はなんとかお礼を言えたようだ。



 お礼を聴くと、ゴリラは満足そうに地面へと倒れこむ。



 いくらゴリラと言えど、トラックへぶつかり、そのまま止めるのに、無傷という訳にはいかないようだ。あくまで人間なのだから。



 生きていることが奇跡と言っても差し支えないだろう。立つ力が入らないだけで、意識はしっかりとあるのだから余計に。



 が、奇跡には不幸がつきものである。そして奇跡は何度も続かない。



 急停車したトラックの後方を1台の乗用車が走っていた。当たり前の様に、車は急に止まれない。乗用車は止まれずに、トラックへと突っ込んでいく。



 玉突き事故の産物。そう表現したらいいのだろうか。止まっていたはずのトラックは、乗用車に押し出され前に進む。たった少しの距離であったかもしれない。



 しかし、地面へと倒れこむゴリラの首を刈り取るには十分であった。



 ゴリラは――彼は意識のある状態で首をタイヤに押し潰される。痛みの中で最後に見たのは、真っ赤に染まった自分の体であった。





連投でござる

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ