逆ハーはステータスだ!
自分なりの異世界乙女ゲー小説。
拝啓母上、私の守護霊は“おとめげーますたー”です。
リズウェット王国王都騎士学校では、年度の変わり目――時期としては入学式の数日前、新三年生の内の一定以上の能力を持つ志望者には守護霊契約の儀式がある。浮遊する霊を自らの身体に降ろし封印することで、能力を引き上げるのだ。剣士が狼の魂を宿せば剣の一振りで城壁を切り裂き、魔術師が鷲の霊を降ろせば一人で敵軍を壊滅させると云う。もちろん契約したからといってそこまでできるのはほんの一握りだし、もしそれだけの能力を持てたとしても実際にやろうとすれば敵の守護霊持ちに妨害されるだろうが。
(ふーん、で、それはわかったけど、なんで私はあなたに降ろされた訳?)
「(さあ? 相性があるらしいけれど、まだ解明されてないわ)」
守護霊契約の儀式の後、しばらく自身の守護霊と話をしろ、との教諭の命令により、守護霊の質問責めに応えている。これは意訳すると『守護霊の生前の能力を把握し、上がった、あるいは得られた能力を推測しろ』という意味である。とりあえず思うだけで会話をするのが思ったより簡単で助かった。周りで独り言をぶつぶつ呟く同級生を見ると強くそう思う。
大抵の守護霊は意思が通じるし、生前の種族によっては会話も難しくない。元が人間の霊という例も少なからずある。だが、ここまで意思のはっきりした守護霊は珍しい、らしい。ましてや、守護霊に質問されるなんて。
(そうじゃなくて、私の魂がどうしてリズなんとかにあるのかってこと)
「(それこそ知りませんわ。そんなに気になるなら後で図書館に行くか死霊魔術科の教諭に聞くかでもしますが。あとリズウェット王国です)」
(まあ、それは後でいいわ。ところでもう一つ気になったんだけど、騎士学校とか言ってたけど女しかいないの?)
「(? おかしなことを言いますわね。男なんて、軍師とか魔術師とか、あとは軍医とか、とにかく後方支援以外ではほとんど居ませんわ。まあ、そこだって数えるくらいしか居ないようですけれど)」
(は? 男がいない? 何言ってんの?)
「(何って、――)えっ」
守護霊が不思議な事を言うせいか、脳裏に不思議な光景が映る。思わず声が漏れたけれど、誰にも注目されていないならセーフですよね?
薄い板の中、大半どころかほぼ全てが男性で構成された行進する集団、あるいは土の陰から黒い筒を構えて跳ね上げる男、あるいは演説する男とそれを静聴する男たち、あるいは、あるいは――
「(……これが、このイメージがあなたの思う騎士ですの?)」
(うん? 見えたの? 正確には騎士じゃないんだけど……似たようなもんじゃないかな)
「(なるほど、あなたは確かに異世界から来たようですわね)」
(信じてなかった?!)
「(何の霊と契約するかは実際に契約するまでわかりませんもの。記録には、詐欺師の霊と契約して犯罪者になった方もいらっしゃるとか)」
(なにそれこわい)
「(そうですわね、こわいですわね。それで、ここの騎士見習いが女ばかりの理由ですが)」
(うんうん)
「(ここだけではなく、あー、あなたの世界と違って、こちらでは男にそんな力が無いからですわ)」
(うん?)
「(まぁ、鍛えれば戦えないこともないでしょうが……やはり戦は女の仕事です)」
(えっ、なに、えっ)
守護霊も困惑するんですね。彼女(?)の感情らしきものや、私が知らなかった知識が流れ込んでいるのがわかります。
「(あなたの世界の知識に合わせて言うなら、ここは女の世界。女が戦い、女が国と家と男を守り、女が国を支える世界)」
(えっ、じゃあ男は?)
「(家で家事や子育てですわ。働いているのも居ないとは言いませんが、大抵は家で女を支えるものです)」
(へー、それじゃ、この世界の騎士団には男は居ないの?)
「(先程も言いましたが、居ない訳ではありませんわ。ただ圧倒的に少ないだけで。なんでも、先先代の王の王男の一人が魔術師として優秀でして。それをくすぶらせるのが惜しいと思ったのか、性別の規定がなかったこの騎士学校に入学させたのが原因だとおもいますが)」
(男性の社会進出みたいな?)
「(ああ、言い得て妙ですわね。もともと男が入学する事を想定していなかったのでしょう、多少の混乱はあったようですが問題なく入学。卒業後はスウェン家の婿の一人として無事結婚。それ以後も――)」
(まって、婿の一人?)
「(あら? ああ、そちらは一夫一妻制度というものがあるのですか。それでいうならこちらは一妻多夫ですね。男は弱いけれど数が多いから、こうでないと男があぶれてしまうのです)」
(一妻多夫? って、女一人に男たくさん?)
「(ええ)」
(逆ハー……)
「(はい?)」
(リングなんとかちゃん)
「(リングウェイ・セラフですわ)」
この守護霊は名前を覚えるのが苦手なのかしら……?
(私がここにいる理由がわかったわ。あなたを立派な逆ハー女主人公に育てるためね)
「(ぎゃくは……えっ?)」
(私がトゥルーの逆ハーエンドに導いてあげるわ!)
守護霊のどやっとした顔が見えたような気がしました。
▽
私は守護霊である。名前は忘れた。このフレーズも何か元ネタがあった気がするけれど思い出せない。
私が守護霊として契約したのはリングウェイ・セラフという女の子。どういう理由だか騎士になって逆ハーを目指すようなので、乙女ゲーで鍛えまくった私が彼女を導いてあげるのです。
(攻略対象は何人?)
「(何? ハーレムの人数のこと? それなら母上に最低六人と言われましたが)」
(六人か……なら、幼なじみ・生徒会長・後輩・同級生・教師、あたりが理想? どれかに双子がいればカンペキね)
「(あれっ、何か決められた?!)」
(それはそうと、どういう逆ハーを作りたいとか、ある?)
「(聞く順番間違ってない?)」
(そんなのは別にいいのよ。問題はね、キャラ被り)
「(きゃらかぶり……?)」
(そうよ、キャラ被り。双子以外のコンセプトの無いキャラ被りは乙女ゲームで最もやってはいけないことの一つよ)
「(いや、遊び(ゲーム)ではありませんが……)」
(知ってるわよ、でもアンタが一人で逆ハー作れるの?)
視界を横に動かして沈黙。いや、目を背けた? 守護霊って言っても、視界や感覚が共通だからこういうときわかりづらい。
「(わ、私だって本で読んだくらいは……)」
(じゃあ、私と同じレベルじゃない)
「(うっ)」
そう言って押し黙るリングウェイちゃん。これは……押しかけられ系主人公の気配……っ! こう、押しの弱い性格で積極的にフラグを建てて回収するのは厳しくなぁい? このタイプはボケツッコミから会話を発展させることも難しいのに……! いや、軍人--じゃなくて騎士だから普段はぴしぴししてるの? 恋愛絡みだと弱気になるだけで。
(……しばらくは、性格の把握のために助言は最小限にするべき?)
「(助言、……は、あると助かるけど……)」
(助けるから助言なんじゃない。私としては、他人のゲームを横から見てるだけってのは趣味じゃないし、あと、黙って見てるだけってのもつまらないんだけどー)
「(遊び扱い……。そうですね、それでは、助言、よろしくお願いしますわ)」
(おっけーまかされた! 立派な逆ハートゥルーエンドに導いてあげるわ!)
▽
(――今思い返せば、それが今の私の始まりだったのだろう。』ねぇ)
「(うう、これは思ったより恥ずかしいですわ)」
(だったらあの記者にここまで正直に言わなきゃ良かったじゃない)
「そうですけど!そうですけど!」
(リングちゃん、声声)
「――っ、(うう…、まるで罰ゲームのようですわ…)」
(そうは言っても、この雑誌もう発売されてるんだからもうどうしようも無いでしょ、第三騎士隊隊長さん)
「(もう、やめてください…)」
なお攻略パートはキン☆クリされたもよう。
ちなみに、守護霊としての『おとめげーますたー』の能力は、『魔法の魔力コストの削減』です。そして、微妙な理科の知識を使った魔力コスト削減も取り入れてるせいで能力無しと勘違いしてるところまでがテンプレ。




