2話
「えっと、どうしましたか?」
私はおずおずした顔をして斎藤部長を見た。
きっと今の私は情けない顔になっているだろう。
そんな私を見た斎藤部長は眉間に皺を寄せ、重たいため息をついた。
「どうしたもないだろ」
ギロリとした目で私を捉えた。
きっと第三者から私達を見て表現するとしたら、蛇に睨まれた蛙の図を想像するであろう。
そう考えているとパサリと机の上に紙が何枚か投げ出された。
その紙は私が出したデザイン案の書類達だ。
「俺が何を言いたいか分かるか?」
「……はい」
私は斎藤部長の顔が見れず、思わず視線を落としてしまった。
するとまた斎藤部長の方からため息が聞こえた。
「おい、一条」
「は、はい!」
思わず指名された一条君は少し上擦った声で立ちあがった。
「少し藤本と話すから会議室には誰にも入れるな。もし誰か訪ねてきても今取り込み中だと伝えてくれ。まあすぐ済むと思うが」
「分かりました」
「そういう事だ、藤本。俺とお前の分のコーヒーを持って会議室に来い」
「…分かりました」
会議室…、クビの通達かな…?
思わず乾いた笑いが零れる。
そう思いながら給湯室に向かう。
向かっている途中、一条と目が合い不安そうな顔をしてこちらを見ていた。
不安なのはこちらの方だ、馬鹿野郎。
いかんせん、会議室で斎藤部長が待っているのだ。
早くコーヒーを入れに行かなくては。
さして遠くもない給湯室に小走りで向かった。
***
会議室、俺はドアより少し遠目の椅子を選び座る。
勢いをつけ過ぎたのか少し後ろに下がった。
藤本が出した案のデザインをもう一度目を通す。
動物をモチーフにしたアクセサリーだ。
猫や小鳥、一見どれも一般受けしやすい様に見えるが飽きられてしまうだろう。
そして子供っぽい、これが一番のネックである。
今の若者は子供っぽい物や奇抜な物を好む趣向があるが、これはただただ子供っぽいのだ。
考えはなんとなく分かるんだが経験が少ないせいか幼稚な物になってしまう。
これをどう伝える。
ただ、怒鳴るだけでは藤本は駄目だろう。
どうけしかける?
そう考えてるうちに「いいですか?」と緊張気味な声がドアの向こう側から聞こえた。
「入れ」
そう伝えるがなかなか入って来ない。
「どうした」
「両手が塞がってて…」
そう言う藤本にイライラしたがここは大人だ、紳士的にドアを開けてやろう。
「今開ける」
立ち上がりドアノブに手をかける。
すると、「すみません」と小声で言いながら入ってきた。
幼稚か…幼稚ねぇ…だったら…
その言葉が頭によぎると思わずにやけてしまった俺は鬼だろうか。
***