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折れたハイヒール  作者: 猫田ミケ
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1話

ピピピピ、ピピピピ、と目覚ましが部屋中に鳴り響く。

さして大きくない音ではあるが、寝起きにはキツイ音量だ。

気だるい体を無理やり起こし目覚まし時計を止め、時間を確認する。

大丈夫だという事が分かると体を伸ばし、ベッドから降りてテレビをつけた。

流れてくるアナウンサーの声を聞き流しながらお風呂場へ向う。

体と脳を起こすためにシャワーを浴びだしたのはいつから習慣がついたのかはもう分からない。

毎朝、いつも同じ事をする。

シャワーを浴びながらついでに歯も磨く。

里に住んでいる母親がこの光景を見たらきっと「しゃっきとしなさい!だらしないんだから!」と怒るだろう。

歯が磨き終わったらタオルで体や頭を拭きドライヤーで髪を乾かす。

身支度をしようと裸のまま部屋へ戻りスーツに着替える。

着替え終わったらまたテレビを眺めながらゼリーを流し込む。

そうすると家を出る時間帯になるのでテレビを消す。

消す前に「では行ってらっしゃーい」と陽気なアナウンサーの声を聞いて誰も居ない部屋で「いってきます」と呟き家を出た。


体系や顔は標準。好きな物は甘いものとお酒。

嫌いなものは虫。性格はずぼらで少し卑屈的。

それが私、藤本沙耶だ。

いつもの時間帯に、いつものバスに乗り会社へ向かう。

それを繰り返すだけの、実に平凡なOLである。


「今日小テストがある日だったよね?勉強した?」

「え?そうだっけ?なんの教科?」

「数学と英語だよー」

「わー、最悪だー」


女子高校生の会話が耳に入る。

というか、このバスは学校の前を通るのでほとんどが高校生が利用している。

だからなのか、少しうるさい。

本人たちは静かにしているつもりだろうけど、そんな事はない。

大勢がコソコソ話していてもうるさいには変わりない。


しかし、ある学生がバスへ乗り込むと静かになる。

きっと次のバス停なのだろう、女子高生達がおしゃべりを中断し、手鏡で髪が乱れていないかチェックをしている。

バスが止まる合図を鳴らすと実に早い動きで鏡を鞄へ仕舞う。

ドアが開くと皆、なんでもない様なふりをしてドアへ視線を送る。

入ってきたのは何人かの高校生達だ。

その中に一際目立っている男子高校生が入ってきた。

この彼が入ると、皆静かになり彼をチラチラと観察をするのだ。

彼が学校で人気なのが窺える。

何故なら皆揃って、恋心を抱いている視線を彼に送るのだから。


そんな彼は身長が高めであまりしゃべらない。

バスの中だから、意識してしゃべらないようにしているのかもしれない。

顔は奇麗な顔立ちをしていて、細めのスタイルである。

顔立ちがあまりにも大人っぽいため、同じバスに乗っている年上のお姉さん方も彼に視線を送る。

そんな容姿の彼だから嫌にでも目に入る。

しかし、私には嫌いなものがもう1つある。

それは5歳以下の年下だ。

あまり離れていると何を喋ったらいいのか分からないし、少し大人を小馬鹿にするような雰囲気が嫌いなのだ。

だから私は彼には興味がない。

もし、私が彼と同じ歳だったら、もし、彼が私と同じ歳だったら、少なからずとも心が惹かれていたのかもしれない。

そんな事を考えているとバスが会社付近のバス停で停まった。

私はそのバスを降りる準備をしてドアが開くのを待ち、開いた瞬間、次の人の邪魔にならないようにすぐに降りる。

その時に何か声が聞こえた気がしたが、自分ではない誰かだろうと思い気にせず会社へ足を運んだ。


会社に着くといつもの場所に警備員のおじさんがいる。

いつも優しい顔をしていて、とても人当たりが良い人だ。


「おはようございます」

「はい、おはようございます。今日もいい天気ですね」

「そうですね、休みだったらお布団でも干せるんですけどねぇ~」

「そうですねぇ~」


そんな他愛もない話をしながら鞄から社員カードを取り出し機械に通す。

これで私が出勤したという事が記録されたのだ。

そのままカードを首に引っ提げて警備員さんに軽くお別れをした。

私の会社は若者向けの小物やアクセサリーを作る会社だ。

知名度はそこまで高くはないが、会社を保てるくらいには知れ渡っている。

その会社の中でもいくつか部署があり、私はデザイン科である。

………まだ採用はされたことはないけど。

自分の部署がある3階へ向かうためにエレベーターへ向かい乗るためにボタンを押す。

すると、誰も使っていなかったのかすぐにドアが開かれた。

エレベーターに乗り、誰も乗らないようだったので閉めるボタンを押した。


「あ!藤本せんぱーい!ちょっと待ってくださーい!」


と何やら聞き覚えがある声が聞こえた。

不愉快なのでそのまま無視をしても良かったのだが、その後が面倒そうだったので開けるボタンを押して声の主を待った。


「おはようございます!藤本先輩!ありがとうございます」

「…おはよう、なんか汗臭い感じがするんだけど?一条君」

「俺、いつも出勤はチャリなんで!」

「あ、近いんだっけ?」

「会社から30分です!」

「へー、どうでもいいや」

「酷い!」


なんて他愛もない会話をしているこの男は一条薫。

私と同じ、デザイン科の後輩で、女の子みたいな名前とは裏腹になかなかアスリート系な体系をしている。

くだけた口調で話しかけてくるのが彼の特徴でそれを許してしまうのは彼の性格とその雰囲気のせいだろう。

3階に着き、ドアが開く。

私はエレベーターから降り、それに一条君も続く。


「今日は何かありましたっけ?」

「私は確か何もなかったと思うけど」

「俺もですよー。あ、そういや藤井先輩から手伝いを頼まれてました」

「へー」


いくつか部屋を通りすぎ、自分の部署へ向かう。

部署の前に着き、私はドアノブに手をかけドアを開ける。


「おはようございます」

「おはようございまーす!」


部屋に入るのと同時に挨拶をすると、ぱらぱらと「おはようございます」と聞こえる。

ドアを閉めるのは一条君に任せ、先に机に着くことにした。

机の上には自分のノートパソコンといくつかの書類やファイルがある。

どこかに連絡事項のメモがないか確認して座る。

今日はどうやらないようだ。

この部署は私と一条君を含め、12人しかいない。

他の部署より少なめで、新人が入ってきてもすぐに辞めてしまう。

それはここの部署の上司がとても厳しいからである。


「おはよう」


そう言いながら入ってきたこの人物がその厳しい斎藤幸裕部長である。

顔は整っているのだが、いつも眉間に皺を寄せ、煙草を咥え何か気に入らないことがあるとすぐに舌打ちをする。

そのせいか、あまり好かれておらず1人で行動することが多い。

ただバレンタインになると沢山のチョコを貰って帰るのを毎年見かけるので女性からは人気なのだろう。

私はあまり良い印象を持っていないが…。

さて、仕事に取り掛かろうとしていたその時、低い声で「藤本」と呼ばれた。

思わず、体が強張ってしまいすぐに反応出来なかった。

それが気に食わないのか、舌打ちをしてこう続けた。


「おい、聞こえてんのか。ぼーっと座ってねぇでこっちに来い」


先ほどより眉間に皺を寄せ私を睨む。


「はい!今行きます!」


私は急いで斎藤部長の元へと向かった。


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