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人狼シリーズ 新たな生活

作者: jinn-rou

「うわーっ、スゴいっ!」



 横須賀基地にやって来た雪の第一声は、それだった。


 ……まぁ、当然だろう、海辺には大戦後に造られた巨大高層ビルが建ち並び、巨大な太陽光発電施設や国立公園の中にある巨大な湖……、正に、現在の横須賀基地を展望台から見た光景は未来都市と呼ぶにふさわしい景観であった。


 ……事実、この町の別名は大三東京都市。

 第一は東京都市、第二は京都の辺りにある副都心と並び、そう呼ばれている。



 「ねぇウルフ、早くいこうッ!」



 そう言いながら雪は俺の手を引っ張った。


 ふと、その顔が彼女に重なる。


 ……彼女にも、この景色を見せてやりたかった。



 『今、見ているわ。』



 ――ふと、彼女の声が、聴こえた気がした。










 ――……その頃、SWAP横須賀基地本部、ピラミッド形のビルの内部の管制室には、ある一方が伝えられていた。



 「明日香チーフ。」



 管制室の椅子に座っている女に、オペレータの一人である秦野真矢が声をかける。

 女は、



 「何?」



 と聞くと、真矢は、



 「先程、国立公園エリア第1254ブロックの防護壁に、破損箇所があると、自動定期検査システムの通知により判明しました。」



 と手短に要件を伝える。

 明日香は立ち上がると、



 「一応、国立公園を封鎖しておいて、そしてなるべく早く現地に調査隊を向かわせて。

 良いわね?」



 と言った。







 ――……「えー!今日も野宿なの!?」



 雪は嫌そうな顔をしてそう言う。

 俺はそんな雪に、



 「……ゴメンな。そろそろ手持ちの金も少ないからな……。

 だが、ペンギンも見たし、ほら、人工だから味気は無いけど合成牛肉も買ったから、これで許してくれよ……。」



 と言う。


 実は、もう手持ちの金が尽きてきたのだ、その為ホテルや宿に泊まることも出来ず、国立公園で夜を明かす事にしたのだ。


 ……早い話が、野宿である。



 まぁ、その埋め合わせ……、になるかはともかくとして、横須賀基地名物の温泉に浸かるペンギンを見たし、人工的に合成された物だが牛肉も手に入れていた。



 「……まぁ、我慢してあげる!」



 ……どうやら、雪は納得してくれた様だ。



 「……すまないな。」



 俺はそう呟き、薪に火を灯した。





 ――それとほぼ同じ頃。



 『本部、応答願います。』



 SWAP横須賀基地では、現地調査に向かった調査隊と真矢が通信を行っていた。



 「……こちら本部、どうぞ。」



 そう真矢が言うと、無線機からは、こんな返事が返ってきた。



 『……本部に報告。壁の損傷は人狼でも通れるサイズであり、早急な修復が必要と思われる。


 ……繰り返す、こちらスッ……。』



 突然、通信が乱れる。そして、



 『……こちら調査隊!


 人狼が少なくとも三体侵入している!


 これより緊急帰還します!』



 そう無線機から聴こえた時、いつの間にか背後に立っていた明日香は、



 「……これより、治安部、及び第一武装部隊に通達!


 治安部と直ちに国立公園を完全封鎖、町全域の住民をシェルターに避難させて!


 第一武装部隊は直ぐに現場へ直行!


 人狼を殲滅する!」



 と指示を出すと、真矢に、



 「……真矢、あとよろしく。」



 と言って管制室から出ていった。






 ――「どうだ?旨かったか?」



 そう俺は雪に聞く、すると雪はニコニコ顔で、



 「うん、美味しかったッ!」



 と言った、それから雪は、



 「ねぇウルフ!


 あそこの湖行ってくる!」



 と俺に言うと、湖の方へ走っていってしまう。



 「……まぁ、ここは横須賀基地だし、人狼も居ないから良いか。」



 そう呟きながら、俺は湖を見つめる。


 ――桜の花びらが揺れる湖面。


 俺はふと、彼女の写真を眺める。



 ――……もし君がこれを見たら、何て言うのかな?



 そう思いながらふと空を見上げると、今日の月は紅い満月だった。


 ――……紅い月、これは人狼が興奮するからなのか通常よりも人狼の被害が多いらしい。

 ……まぁ俺は多少気持ちが高ぶるが、別に普通なんだがな。



 そう思った時、ふと俺の鼻にある臭いが伝わった。


 ――……この場所では感じる筈の無い、人狼の、臭い。




 俺は目の前に視線を戻す。

 ……そこには、人狼が居た。


 数は5、6人くらい、服は着ていない、その目付きは―――どうやら、理性の欠片も見られなさそうだな……。



 ――ふと、ここから少し離れた木の影から、雪の臭いを嗅ぎとった。



 「雪!、そこで隠れてろ!」



 そう俺が叫んだのと、人狼達が俺に襲いかかってきたのは、ほぼ同時だった。


 まずそれを間一髪で交わし、俺は人狼の中をすり抜ける。


 間合いをとり、一人の人狼の顎を蹴りあげた。



 「ギャウン!」



 犬の様な叫び声を上げ、人狼が倒れる。

 それから直ぐに間合いをとる。


 ――……さすがに、一人づつ倒していかないとヤバイのだ。





 その時――、



 ―――バババババババ……。



 上空からそんな音が響く、空を見上げるとそこには一機の軍用ヘリ……。


 機体には、『SWAP YOKOSUKA-002』の白文字が描かれたそのヘリから、何かが飛び降りてきた。

 それはそのまま地面へと着地すると同時に、槍のような武器で、人狼を一人斬った。


 ――それは、女。


 紅いSWAPの戦闘スーツを身に纏い、手には巨大な銃剣型の武器が握られていた。


 その女は俺に向けて攻撃してくる。


 俺はそれを間一髪で避けると、



 「敵意は無いッ!、止めてくれ!」



 と叫ぶと、女は驚いた表情を浮かべ、



 「……なっ、人間の言葉が分かるの!?」



 と叫ぶ。俺は女の後ろに近付いてきた人狼を蹴り倒すと、



 「……あぁ。

 それよりともかく今はこいつらを倒させてくれ!

 でないと雪が危ない!」



 と叫び雪の隠れている木を指差した。

 女は、そこに人間の少女が居ることを確認すると、



 「……わかった、だが。

 ……私に指図をするなァッ!」



 と叫び、また人狼を斬った。



 ……それから数分後には、倒された人狼の山が出来上がったのだった。




……………



 「……。」



 俺と雪は、拘束されていた。

 ……あの後、俺はやって来たSWAP隊員に手錠で拘束された。


 ――……そして連れてこられたのは、この執務室らしき所。


 俺達の目の前には、あの女がSWAP職員の制装に着替え、足を組んで座っていた。


 女は、俺達の事をじっと見つめる、そして……。



 「人狼、1つだけ聞くわ。

 ……何故その少女と一緒に居るの?」



 そう言った、すると雪は怒った顔で、



 「人狼じゃないもん!、ウルフだもん!」



 と叫ぶ、すると女は驚いた表情を浮かべ、それから吹き出した。



 「アハハハ……!

 ごめんなさいね。私は新藤明日香、ここのチーフ……、最高責任者です。」



 そう笑いながら言うと、女―――新藤は俺に向かって、



 「……あなた、この子に好かれてるのね。」



 と言った。俺は


 ――……こんなまだ若い女が、横須賀基地の最高責任者!?


 と思いながら、



 「……あ、はい。こちらこそ……。」



 と言う。すると新藤は、



 「……まぁ、その少女は私は頼まれたから定期的に見ていてね、失踪した時は焦ったけど……。

 良かったわ、こうしてこーんなに逞しい人狼さんに出会えたんですもの、これでもう安心ね。」



 と言うと、ポケットから煙草を取りだし、火を付けた。


 ――……細い煙が立ち上るが、換気設備がしっかりしてるからなのか臭いはまったくしない。


 俺は、ふと疑問に思った事があったので、聞いてみた。



 「……あの、新藤さん。

 ……その、誰に雪の事を……、頼まれたんですか?」


 そう俺が聞くと、新藤は深く煙草の煙を吐き出し、



 「……まぁ、その少女―――雪ちゃんの母親ね。」



 そう短く言い。それから続けて、俺の手錠を外すと、一枚の身分証明書と、キャッシュ・カードを渡してきた。



 「キャッシュ・カード?。」



 「ええ、そうよ。」



 新藤は茶髪をかきあげ、吸いかけのタバコの火を消した。



 「色々理由があってね、貴方と雪ちゃんには生きのびて欲しいの。」




 俺はふと、窓の外を見上げる。

 そこに見える空には、空には、紅の満月……。




「どういう事だ?」




 俺は新藤に問う。


 「何か裏があるんじゃないか?」



 「裏なんてないわよ。」




 新藤はくすくす、と笑い、



 「私は雪ちゃんのお母さんからこの子を守ってほしいって遺言されたのよ。

 でも、今は貴方という立派な守り役がいるわ。」



 そう答えた、俺は、



 「そうか……。じゃあ、行こう、雪。」



 そう言う新藤に言うと、雪を抱き上げ、



 「もう会いたくないね。」



 と言うと、新藤は、



 「私もよ。」



 と答えた。





…・…・…・…・…・…・…・…・…・…




 とりあえず俺たち二人は、しばらく横須賀に住む事にした、そこで借りた横須賀のマンションに着いた俺は、



 「さーて。」


 とそんな声をあげながら茶色い上着を脱いで、



 「風呂にでも入る か。暑いしな。」



 ……久し振りに、風呂に入る事にした、



 「おーふーろー!?!?」



 すると雪ははしゃいだ。



 「お風呂とお肉好き!!」




(何だこのノリは?)


 そんな雪のハイテンションに唖然としながら、俺は、




「じゃ、湯入れてくるからな、ちょっと待って てくれ。お前が入っている間に、料理作るから。 」



 と言うと、雪は、



 「はーい!!おーふーろー!おーにーくー!」



 と言いながらはしゃいで、バスルームへと走っていってしまう。



 「……おいおい、まだ入れてないぞ?」



 俺はそう苦笑しながら呟いた。

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