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突然の初ポルゲーム(1-2)

 放課後になり、そろそろ帰ろうと思っていたところで愛用のスマホの着信音が鳴った。そこで仲間の一人に、切羽詰まった感じでとにかくと懇願されたので、俺は訳も分からず学園の体育館に来ていた。

うしお、あんたが代わりをやりなさい」

「……は?」

「聞こえなかった? なら特別に二回言ってあげるからよ~く聞きなさい。あんたが、凜音の代わりに跳びなさい!」

「ふざけんな! なんで凡人代表みたいな俺が、運動バカと勉強バカがタッグ組まないとできないようなルールのゲームを、代わりに引き受けなきゃならねーんだよ!」

 俺がここまで拒むのには、理由がある。

 俺はこの申し出を受理すると、最悪三十分間、縄を跳ぶという行為をし続けなければならなくなるのだ。

 俺が代行を申請、もとい、むしろ強要されているのは、先程のポルゲーム。

 一人が縄跳びをし続けている間、もう一人が出題内容自由の一問百点、全百問で一万点満点のテストを解答するという、ツーマンセル制。出題内容が何でもいいということで、パソコンなどのオプションアイテムの持ち込みが可能。跳んだ回数を十倍したものと、テストの点数を足した合計点数の多い方の勝ちだ。

 勝利した組には、その点数にさらにあらかじめ設定したレート分を倍した報酬の、ポルが支払われる。今回は三倍だ。

 テスト側の敵かこちらが、全問終了の宣言をしたら制限時間を無視して終わりだが、それまで縄跳び側は何が何でも跳び続けなければならない。引っかかった時点で、その組の縄跳び分の点数は無しになってしまうからだ。 

「仕方ないでしょ! あの子、運動バカの前に本物のバカなんだから!」

「…………」

 言い返せない。

 なぜなら、俺の幼なじみであり電話をしてきた張本人であり、チームメイトの運動バカこと、春宮凜音はるみやりんねが正真正銘のバカだから。

 女子なのに、女子とは――いや、人間とは思えない程の運動能力は、天才と表現するしかないのは認めるけど。それ以外は、全能力値が平均以下だ。

 ポルゲームは、時間を決めてしっかりその時間に開始しなければ一定のポルが相手に奪われてしまう。だが、正式な参加者である凜音は校舎で迷って、目的地に来れないでいるらしい。だから俺が、この場に代理として呼び出されたのだ。

 でもこんなに頼りないやつではあるものの、このチームに入れたのは凜音のおかげだったりする。だから感謝はしている。

「それに、あんたは私たち『アンリアル』の隠し玉でしょ! せっかく私たち以外で腕を試せるチャンスじゃない。自分は役に立つってところを私に見せてみなさいよ」

 因みにさっきから俺と言い争っているのは、我らが『アンリアル』のボスであり、勉強バカの狩染伶夏かりぞめれいか

 このポルゲームを考案したのはこいつだ。ゲーム名はジャンプ&クイズ。それを略して『J&Q』と呼ぶらしい。変なところこだわるから、J&Qと呼ばないと怒られる。さっき殴られた。

 外見は男子の平均身長程の俺と同じくらいの背丈で、よく手入れされた腰まで届くほどの黒髪。言動に似合わない可愛らしい瞳。

さらに、モデル顔負けのスタイルや、これで俺と同い年なのかと疑いさえ抱ける大人っぽさは、チームのボスたる風格を十分に漂わせている。

 おまけに、何度も言うが勉強バカ。どれだけ勉強バカかというと、現時点で東大首席者と学力勝負をして、圧勝できるくらいには勉強バカ。

「できれば、他人の前で『あれ』には極力なりたくないんだが」

「つべこべ言わない! あんたがこの学園で生き残っていくのに、あれだけ使える力も他にないでしょう。それに、どうせこの二人の弱味だって握ってるんでしょ?」

 伶夏は、目の前にいる二人の柄の悪い二年生を指差して言った。

 この人たちが、今回のポルゲームの対戦相手だ。

 今回のと言っても、俺にとっては実質初ポルゲームなのだが。

 身なりがいかにもヤンキーなお二方が伶夏たちにポルゲームをふっかけてきたので、結果的に俺が巻き込まれている。迷惑な話だ。

ポルゲームは、一度申し込まれると拒否できないから何とも言えないが。

 申し込まれる側のメリットは、ゲーム内容や日時などを全て決められること。

 だから申し込む側は、相手にするのが自分より下だと思わないと、ほとんど来ないはずなんだけど。なんでこんな知恵袋の塊みたいなのを選んだんだ? 適当に選んだのかな。

「人を悪人みたいに言うな! ……あれになったら何とも言えんが」

「あら? 私はダークヒーローみたいで良いと思って、賞賛してあげたつもりだったんだけど?」

「え?」

 ……これだ。これだよ。

 その犯罪的なまでの美貌で、人をその気にさせるのは反則だと思う。

「……はぁ。もうどうにでもなれ」

「よろしい」

 満足したように伶夏は頷く。同時に、俺たちと対戦相手との間に設置されている教室にあるものと同じ机の上から、そこに置いてある縄跳びを取って俺に渡した。

 もう受け取ってしまったし引き下がる訳にもいかないが、このゲームは負けられない。

 なぜか。

 普段はポルのやりとりのためだけのはずのゲームなのだが、今行われようとしているゲームには俺たち自身がかかっている。

 俺たちが勝った場合、勝利時に支払われるべきポル量のさらに倍の量を相手が払う。しかし俺たちが負けた場合は、ポルの支払い免除の代わりに俺も伶夏も、この場にいない凜音までもが『クリムゾンフェザー』、通称『アカハネ』という派閥に所属しなければならなくなるのだ。

 これは非常に痛い。

 派閥に所属すると、上下関係が発生するからだ。しかもその派閥内のルールとかもあるから、学園生活がもの凄く面倒くさくなる。

 多分メリットもあるのだろうが、俺たちにとってはデメリットの方が多い。

 そんな条件を、伶夏は余裕こいて受けてしまったのだ。

 一応は学年の半分に入った、二年生を相手に。

 確かに伶夏と凜音だったら余裕だったかもしれないが、アクシデントというものを考えろよ、と俺は切実に思う。

「さぁ一年共、そろそろ時間だ。準備はいいな?」

 動きやすそうなジャージを着た敵の一人が、待ちくたびれたというように肩を回す。おそらく縄跳び担当だろう。大男で、まるでプロレスラーみたいだ。

 因みに俺は学校指定の体操服を着用。急なことだったからこれしか持ち合わせが無かった。 

「ええ、大丈夫よ」

 それに対して、伶夏は制服の胸ポケットからペンを取り出して、臨戦態勢をとる。

「へへへ、一年だからって容赦はしねーぞ」

 相方の筋骨隆々な方とは対照的に、もう一人の二年生はひょろひょろ。しかし〈学〉のスキルが高そうに見える丸眼鏡をくいっとして、俺たちを威嚇。

「お手柔らかに」

 やる気のある三人の中で一人、やめられるなら今すぐやめたい俺。

 体育館にある時計の針ががカチッと揺れて、約束の時間になった。

「それでは、J&Q、レート三倍、オプションありのツーマンセル三十分一本勝負を開始するわよ!」

 伶夏がそう呼びかけると、俺と筋肉野郎は縄跳びを持って机からちょっと離れた場所へ。伶夏とひょろ眼鏡は席に着いた。

「タイマーは俺に任せな」

 眼鏡の二年はポケットから、学校支給の端末である『ポルノート』を取り出して言った。

 ポルノートは手帳型のスマホのようなもので、この学園の生徒である証明だ。

 その機能は多様で、ポルシステム導入店での支払いやポルゲームの申し込み、個人データの管理などができる。他にも、ストップウォッチみたいな、ポルゲームで使えるものなんかも備わっている。

 眼鏡はポルノートのタッチパネルを操作して、三十分のタイマーをセットすると、

「それじゃあ、よーい……」

 少々の間を置いてから「ドン!」と言って、ゲーム開始を告げた。 

次回かその次は絵師さんによる挿絵付です!!


ご期待ください!!!

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