ポルシステム(1-1)
第一章 悪運強き、ノーデータ
高校デビューをしよう。
俺、巡矢汐はそう思い立ち、意気揚々とした気分で春休みから心待ちにしていた、吟稲学園の入学式に挑んだ。
……だが。
学園の卒業生である親父から聞いた通り――自分の想像していた域を遙かに超える異質なこの学園に、俺はただただ唖然とすることしかできなかった。
まず入学式での校長の話で初っ端から驚かされたのは、この学園のシステムについて。
それはもう一般の高校、言ってしまえば常識からかけ離れた仕組みだ。
通常この日本の学校という施設は、学力向上を目的とした公共機関のはず。
しかし、吟稲学園は違う。
ここはもちろん学力も必要だが、それ以上に『実力』というものが何より重要らしい。
世界で唯一公に認められたこの実力主義の仕組みを、吟稲学園では通称『ポルシステム』と呼ぶ。
ポルシステムの『ポル』というのは、吟稲学園の生徒内で扱われるポイント制の通貨のこと。
けれどこいつが通用するのは、実は校内だけではない。
凄まじい程、いろいろな意味で名のあるこの学園の権威は周辺地域を巻き込み、『ポルシステム導入店』なるものが存在する。
そこではポルが円の代わりとして、金銭的な効果を発揮するらしい。つまり、ポルを使用しての買い物が可能なのだ。
驚くのはまだまだここから。
ポルシステムには、通常の学校とは異なる様々な要素が含まれている。その中でも最も大きな特徴が『ポルゲーム』と呼ばれる、生徒各自がルール等を自分で一から作成する完全オリジナルのゲームだ。
ゲームと言っても、もちろんただ遊ぶためのゲームではない。この学園で生き残っていく上で、最重要要因となりうるポルを争う、かなりシビアなゲームだ。
かと言って、命を危険に晒すとか、警察に見つかったら刑務所行きになるような、そんな危なっかしい物は無い。
例えるなら、その中にはトランプや将棋などを媒体として作られるゲームも含まれている。あくまでこれは、ゲームなのだ。
ポルゲームが完全オリジナルというのは、ゲームを創作することも、ゲームの内に入るからだ。
ゲームは五つのジャンル分けがされていて、各々がそのジャンルに沿って考案する。
五つのジャンルは〈忍〉〈推〉〈学〉〈技〉〈運〉に分類される。
〈忍〉は忍耐。簡単に言えば、我慢強さを競ったりするものがこれにあたる。
〈推〉は推理。既存の知識とは違って、物事を考えに考え抜いて答えを導き出す。
〈学〉は勉学や知識といったもの。さっきの推理とは対照的に、これはそのまま学力だ。
〈技〉は運動や料理や演技といった、個人の能力のもの。職人芸的な感じ。
〈運〉はそのまま。「運も実力の内」の、運だ。
この五つはゲームジャンルの分類だけでなく、個々のステータスの項目にもなる。国語や数学の成績みたいに、実力に応じて五点満点で点数がつけられるのだ。
因みに俺はオール三。フラットな道を突き進む、まさに平均だ。
ポルを争うことになるのは、何もポルで買い物ができるからという娯楽的な意味だけでは決してない。
第一に、俺たちが吟稲学園の生徒である以上、月末に毎回三万という月謝が発生する。
その単位は、円ではなくポルだ。月謝はポルでしか支払えない。生徒には、毎月三万ポルを卒業まで自分で支払い続けなければならないという義務が課せられる。月謝を一回でも払えない月があれば、即刻退学だ。
第二に、ポルは進級の際成績代わりとして学園側に評価される。つまり、順位付けがされるのだ。
進級時に、一年生は学年生徒数の半分以内、二年生は三分の一以内の順位でいなければ、これまた有無を言わせず退学させられる。
だから、学年が上がる毎に生徒数は減り、勝ち残った優秀な生徒だけが在学を許される。
そこで誰もが思うだろうが、こんなに退学させられるリスクが高いのに、なぜ生徒が集まるのかという点。
それはきっと、卒業後に得られる輝かしい未来を見据えてのことだろう。
三年生まで残り、見事卒業を果たした者には『将来選択権』という、この学園だからこその特権が与えられる。
この権利はまさしく名の通り、将来が選べるのだ。
大きな会社の社長になりたい、歌手になりたい、自分の興味のある分野の研究をするための、資金や土地が欲しい。誰もが一度は夢見るような事柄が、現実になる。
それもそのはず。
東大の卒業生よりも吟稲学園の卒業生が優遇されるような、それだけの力と実績がこの学園にはあるのだから。
ここまでで分かるように、ポルというのは吟稲学園では咽から手が出る程に貴重なものだ。
故にこのように言われている。
ポルとは『金であり成績であり、生命線』である、と。
結果、ポルシステムを要約するとこうだ。
一応吟稲学園も学校ではあるので、俺たちは一般の学校と同じ教育課程をこなしつつ、ポルゲームで生徒内通貨であるポルを蓄え、見事本当の意味での優秀な人材となるように、と。そういうシステムだ。
まぁ、校長が入学式の場で長々と話していたことを、自分なりにまとめただけなのだが。
実際、一度話を聞いただけでは意味の分からないことはいくつもあった。それはそうだろう。ついさっき聞いた話を、しかもこんな複雑な仕組みを一発で理解しろという方が、無理な話なのだ。
けど、こんな無茶苦茶そうな中でも幸運なことに、俺には頼れる仲間ができた。
ポルゲームにはソロ・ツーマンセル・グループの三つの形式があり、一人・二人組・五人組と人数が決められている。だから、最低五人の知り合いが欲しい。
そんな時に、俺が入れば五人チームになる場所に入れたのは非常にラッキーだった。
入学初日は知り合いが誰一人としておらず、心細さの極みを体験していた。
だがその一週間後である今は、心強さの極みを噛みしめている――はずだった。
本日より連載開始です。前作を完結させていませんが……察してください←
更新は随時していこうと思いますので、お暇なときに覗きに来てください。