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赤神朱音はホワイトデーがきらい。

ホワイトデー。

バレンタインデーのお返しにと男子が女子にクッキーなどのお菓子を送る日である。

…間違っても町中が真っ白い日とかではない、ホワイトな日と言ってもそうではないのだ雪も降ってやしない。

いつもと変わらぬ風景、バレンタインデーと比べると男子のそわそわした姿は見えないでいた。

それもそうだ。だって今日は男子が女子に贈り物をする日。

天地がひっくり返ったとしても大量のチョコをせっせと作る女子など居てはいけないのだ!



「…なぜわたしがこんなことをしなくちゃいけない。」



はぁ…と弱弱しくため息をつく後ろを軽く結びポニーテールとした少女。

彼女の眠たげな眼は確実におりかけようとしていた。

時刻は2時を回り、完全なる深夜を迎えている。

この時間まで起きるということを彼女は殆ど経験したことがなく(修業と表して山籠りした時はその限りではない)、このままチョコレートを溶かしたボールに顔をうずめてしまいそうになっていた。

彼女が眠いのを我慢して作るはチョコレートの型どり。

明日(正確に言うと今日、であるが)はホワイトデー。彼女がバレンタインデーで同じクラスの女子達にもらった沢山のチョコレートは、溶かせばプール一杯分ぐらいにはなるのではないだろうかと思ってしまうほどの量を誇っていた。

なぜ彼女がここまでチョコレートを貰ったのか、世界大会優勝者というのもでかいだろうが、送別の意味合いも大きいであろう。

彼女は今年の4月からは別の高校に転校する予定となっている。

なのでその前にせめてもの花向けとしてこうしてクラスメートから大量のチョコレートが届いたというわけだ。



「…あんなに大量のチョコレートを送ってくれやがって。ただじゃすまさないよみんな。」



しかしその思いは彼女の前では逆効果。憎たらしげにお返しのチョコの数々を見つめるその顔は正しく鬼の形相。

他人から見たら悲鳴を上げかねない顔となっていた。

それもそのはず、彼女の家の家訓に『恩義受けし時、必ず返す義理あり』と他人からもらった贈り物はたとえどれだけ簡素で安い品物であってもお返ししなければならない暗黙のルールが存在する。

しかもただ返すだけではない。受けた恩義には何倍も何十倍にも増してお礼をする必要があった。

それをプール一杯にはなるだろうチョコレート?一体どれだけのお礼をすればいいのか考えるだけで彼女は薄く笑いすら浮かべて絶望に浸った。



「ははっもう、なんか、どうでもよくなってきたー」



ぐるぐる回る視界、彼女の限界は既に超えており箱に詰めていたチョコは200を数えた。

その上にどさりと横たわる彼女。

慣れない調理、チョコレートという普段食べもしない奇妙な食べ物の甘い匂いにクラクラと眩暈を起こしている。

味見をしても分からぬ、既に舌がマヒしていてろくに味を感じることなく沢山の調味料を加えた。

辛くも甘くも苦くもあるチョコレート。きっと彼女が配るチョコレートはそういったものとなるはずだ。

それを汗を垂らしながらも『おいしい』と言ってくれる優しいクラスメート。

ならばとさらにと数を重ねるだろう彼女の姿が見えるようだ。

その顔には隈を宿し疲れた表情。味も分からなくなるほど味を整えた極上のチョコ(理想)。

疲れ切った彼女には分からない。クラスメートの苦笑した顔。廊下へと走り出す彼女たちを責められるのか。

分からない、分からないが今は寝かせてやろう。

きっと昔の夢でも見ているのだろう彼女―――赤神朱音という人形の如き美しさを持ち滅多にない笑顔を垣間見せた彼女をどうか起こすことの無いように。

とても気まずくなるだろう教室を思い返し、台所で寝てしまった彼女を置いて時間は無情にも進む。



時刻は4時過ぎ、学校までの時間は残り3時間を切っていた。

予想通り次の日味が物凄いチョコを配る赤神さん。…どうなったかはご想像にお任せいたします。

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