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不憫でならない

その後の授業では、神様は静かだった。予想以上に静かだった。

時折『へへへ…』と不気味な笑い声が聞こえてくるが、それを除けば静かだった。

意外と常識があるのかもしれない。

帰り道、周りに人がいないのを確認して神様に話しかけた。


「なぁ」

「なんです?」

「時々ニヤけてたみたいだけど、何してたんだ?」

「あーあれはですね、みなさんの恋愛事情を覗いてたんです!」

「恋愛事情?」


なんだそれ?


「はい。私、神様なので、他人の恋愛に関する感情的なものを見ることができるんですよ。で、暇だったので見てました」

「見てましたって…あっ、もしかして景が葵のこと好きだっていうのも、それで知ったってことか」

「その通りです。まぁ心の中を読めるわけじゃないので、万能じゃあないんですけどね。でも私、神様なんで、本気出せば見れるんですけどね!」


ドヤァと頭の上に見えそうなぐらいのドヤ顔で俺を見下ろす神様。こーゆーところがなければ可愛いのにな。顔は高得点なのに性格残念だ。

とはいえ、こいつは人に嫌われるのが仕事(?)みたいだし、これで間違ってはいないんだろうな。


「とりあえずさ、あんたには見えてるその…恋愛事情っていうの? それはさ、俺に言わないでな」

「なんでですか? 一緒に楽しみましょうよー。なんなら恋愛相談室みたいのも開いちゃいます? 結構がっぽり儲かりますぜ!」

「別に儲けようなんて思ってないし。人の恋愛事情が分かっちゃったら人生面白くないだろ」

「随分マセたこと言いますね。このおマセボーイ」

「うっさい。他人の心の中がわからないから人生は面白いんだ、と俺は思ってる」

「はぁ。高木さんってば、意外と真面目ボーイだったんですね。もうちょっとノリの良い人かと思ってました」


何を言われようと、これが俺なんだから仕方ないだろ。変えようと思って変えられることじゃあない。


「まぁいいんですけどね。でも覚えておいてくださいね。高木さんが恋をして、それが成就してくれない限り、私はいなくなれませんからね?」


『いなくなれない』

そう不思議な日本語を使った神様に少し違和感を覚えた。

本当はもっと別の恋する少年少女の元に行きたいのだろうか?


「なぁ」

「はい?」

「なんか悪いな」

「…はい?」

「ほら。手違いとは言え、俺みたいな人間なんかに取り憑くことになっちゃってさ。できれば俺だって恋愛とか真剣にしたいとは思うんだけどさ、どうも『好き』って感情がよくわかんないんだよ。だって好きになった人と付き合っても何したらいいかわかんないし、大事にするっていうのもよくわかんないし…」


神様は、目を丸くして俺のことを見ていたかと思うと、口に手を当てて『プッ』と笑い出した。


「プククク…高木さん。もしかして今流行りのデレってやつですか? 私に悪いと思ってるんですか? 私は別に高木さんは高木さんで面白い人だなぁとかって思っているのも知らないで、一人で変に悩んで勝手に答えだして謝ってるんですか? うはー! 高木さんてば可愛いところあるんですねぇ! かわいいでちゅねー! こんな可愛い神様に馬鹿にされるのってどんな気持ちですか? ねぇ、どんな気持ちですか?」


俺の周りをぐるぐると回りながら、ニヤニヤとした馬鹿にしたような顔でそう言う神様。

俺は勝手に悩んでいたことをものすごい悔やんだ。そして恥ずかしかった。

何が悲しくてこんなクソみたいな神様の心配をせねばならんのだ。馬鹿らしい。人に嫌われるために来たと自分でいうこともあってか、人をムカつかせる才能は抜群だ。

無視して下を向いたまま歩き出すと、神様も後ろからついて来ているようだった。


「あるぇ? もしかして怒ってますぅ?」

「うっさい! さっきのセリフは忘れろ! いいか! 絶対にだ!」

「『ごめんな。俺、恋愛とかよくわかんないからさ』とかってセリフのことですかぁ? わたしぃ、難しくてどのセリフのことかわかぁんなぁい」

「このクソ神様が…」


殴りたい、この笑顔。

ケーキ屋のマスコットキャラクター顔負けの、舌出しスマイルを見せつける神様。

神様からの意地汚い追撃は、家に帰るまで続いたのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると嬉しいです。


神様本領発揮。

プロですから。


次回もお楽しみに!

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