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部屋のワードローブをかき回したミョネは、一着の昔風のワンピースに手を止める。
「母さん……」
後ろから遠慮がちに覗き込んだヤヲが、小さな声で尋ねた。
「手作りですか。」
「母さんは、ボクにこういう服を着せたがった。オンナノコだからって……一度ぐらい、着てあげればよかった……」
ぬくもりを求めるように、その生地に深く顔を押し当てるミョネ。その姿は儚く見えて、ヤヲの胸が不安にざわめく。
「ミョネ、あなたのお母さんを死なせたのは……」
「解っているよ、隊長さん。」
ワンピースを丸めるようにして小さなトランクに押し込んだミョネは、存外に明るい声で言い放った。
「ボクは死んだりしない。あんたを親の敵として、地の果てまでも追いかければ良いんだろ。」
カチリとトランクの蓋を閉めて、ミョネが立ち上がる。
「さあ、ここにも火を放つ……」
あの谷間の廟にも、墓泥棒が残したダイナマイトを余すことなく仕掛けておいた。今頃は、跡形なく吹き飛び、ただの岩屋と化していることだろう。
「……本当に良かったんですか。ずっと守ってきたものだったのでしょう?」
「ボクが守りたかったのは、あんな辛気臭い『墓』なんかじゃないよ。」
ドアを開けようとするその腕を、ヤヲががっちりと掴む。
「ケウィのところに戻るつもりですか。もうあなたを縛り付けるものは、何も無いでしょう。」
「だからって、あんた達のところに帰る訳にもいかない。ボクは裏切り者だからね。」
「じゃあ、じゃあ、こういうのはどうです?」
ヤヲがミョネの耳に何かを吹き込む。彼女は呆れきった表情を浮かべて、ニコニコと笑う男を見上げた。
「あんたは何ていうか……顔がいい分、余計に残念だね。」
「ちょっと待て、もう一回言ってくンねぇか?」
無事に見つけ出したヤヲを前にして、表情の無い体からも明らかに見て取れるほどに、そのスライムは困惑していた。
満面の笑みを浮かべるヤヲの左腕の中には、ケウィの配下である爆乳美女が申し訳なさそうにしがみついている。
「……だから、『捕虜』です。」
「はああああああ? 何故そんな事になった!」
「それは、ナイショなんです。」
「ヤヲ、てめえ、挟んでもらったのかっ! 挟まったり、埋まったりしたのかっ! ぐあああああ羨ましいいいいいっ!」
悶え、地団太を踏むスライムをミョネが呆れ顔で見下ろす。
「あんたも……残念な男だねぇ。」
その耳元でヤヲがそうっと囁いた。
「一番近くで待っています。いつでも仇を取りに来てくださいね。」
こうして、ヤヲの恋は続く?
ヤヲ、捕獲成功ですね。
ここでまた、休憩を・・・
二週間、8月20日ごろには戻ってきます!




