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「本当に立派な扉だなあ。こりゃあ、相当なお宝が眠っているに違いない。」
「どうでもいいけど、さっさとはじめろよ。『墓守』が来ちまうだろ。」
男たちは岩戸の周りをぐるりとめぐる。
「多少ぶ厚いが、なに、発破を掛けちまえば行けないことは無い。」
「とりあえず、この辺の窪みに一本、仕掛けてみるか?」
岩戸の隙間に挟み込まれたダイナマイトは、小さな地響きを立てて開くその扉にあっけなくすり潰された。
「そんなモンじゃ、傷一つ付けられやしないよ。」
堂内から歩み出るエキゾチックな褐色の美女に、男たちが下卑た口笛を甲高く吹き鳴らす。
「色っぽい『墓守』だなあ、おい。」
「扉の鍵の代わりに、俺の『鍵』を突っ込んでやるよ。」
「おいおい、違う『扉』を開けちゃう気かよ。」
ミョネに続いて出て来たヤヲは、品のない会話に眉をひそめた。
「聞いてはいけませんよ、ミョネ。あなたの耳が腐る。」
はらりと自信に満ちて揺れる金髪に、男たちはぎょっと言葉を呑む。だが、その右肩に痛々しい包帯を見て取ると、再び下卑た笑いに顔を歪ませた。
「怪我人が、おまけに丸腰で、何をしようって言うんだよ。」
「ダイナマイトはあれ一本きりじゃないんだぜ。」
懐から取り出された細い円筒の、その導火線の先に点火具が押し付けられる。
「こちらも、丸腰って訳じゃありませんよ……ミョネ!」
差し出されたヤヲの左手に、なだらかな女体が姿を変えながら飛びつく。
投げつけられたダイナマイトに向かって振りおろされた刃が風となり、爆風をすっぱりと切り裂いた。音速を越えるその切っ先に触れた爆音さえもが割れて歪む。
「私も剣士の端くれですからね、『利き手』に怪我をするようなへまはしないんです。」
おさまりゆく残煙の中に、金の髪を振り乱して立つその姿は、さしずめ『黄金の戦鬼』。そして、左手に掲げられた美しい反り刃の月蝕剣はどこと無く女体を思わせる美しい曲線に震え上がる男たちを映しこみ、凛とした声をあげた。
「さっさとここから立ち去れ! あいつが来る前に。」
「冗談じゃねえ。お宝を拝まないで帰れるかよ。」
「ここにはあんた達が思うようなお宝は無いよっ! お願いだから、帰ってよ。」
「そ~んな必死になっちゃって、さぞかしすごいお宝があるって、逆に宣伝しているようなもんだぜ。」
男たちはおのおの、懐からダイナマイトを取り出して低く身構える。
「くっ! 物分りの悪い……ヤヲ、片っ端から斬り捨てて!」
「でも……」
「お願いだ。これ以上、母さんが人を殺すのを……見たくない。」
「解りまし……」
ヤヲの返事を飲み込んで、何者かの咆哮があたりに響き渡った。
……長く、深く、ひたすらに本能のまま続く、血を吐くように不吉なその声……
「母さん、やめて!」
ミョネの願いも虚しく、ガサリと草むらを踏み分けて、『ゴーレム』がその姿を現した。




