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 岩壁の頼りない青白さに照らされて、ミョネはヤヲを睨みつける。

「ボクはっ! 傷ついたりしないっ!」

「道具だから……ですか?」

「そうだよっ!」

「そうですか……」

 華奢だが指の長いオトコの手が、柔らかなオンナの頬をブニッと潰すように掴む。そのまま幾たびか、ぶに、ぶにと感触を確かめるように動く指先に、ミョネは激しく戸惑った。

「やめ……やめろぉ!」

 押し返された指先を余韻を惜しむかのように所在なくすり合わせながら、ヤヲは冷たく言葉を放つ。それは、ヤヲ自身さえもが驚くほどに冷え切って、洞壁に響いた。

「……ケウィとも、『道具』の関係ですか。」

「まあ、『主従』よりは、そっちの方が正しいかな。」

「……」

「あいつはここにロストテクノロジーが埋まっていると聞いてやって来た侵入者だった。だけど、それまでのちゃちな侵入者とは違う。軍隊を率いて乗り込んできたんだ。ボクとゴーレムは取り押さえられ、あいつはここの扉を開けた。」

「でも、荒らされた形跡はありませんね。」

「ここには、あいつが欲しがっているものは無かったからね。だけど、それが解ったとたん、あいつはここを爆破しようとしやがった。」

「じゃあ、ここを守るために彼の『道具』に?」

 金の瞳が悲しげに揺れながら、揺ぎ無く立つ女戦士を見下ろす。

「私はあなたにヤヲ隊に……私の元に戻ってきて欲しかった。だけど今の私は、あなたと一緒にここを守って暮らすわけにはいかない……」

「解ってるよ。あんたは姫サンが第一だもんね。」

「ミョネっ!」

 ヤヲが細い両手首を捉え、勢いのままミョネを岩壁に押し付けた。ぼんやりとした光が、その女性的な体のラインを柔らかく照らす。

「ケウィはいずれ、倒さねばならない敵……もし、彼が倒れ、あなたが自由になるその日が来たら……その日が、来た、ら……」

「来たら、なんだよぅ?」

「ここへ、もう一度……一緒に……」

「はあ? 何しに。」

「いや、その、さっき、裸を見てしまった責任とか……」

「そのぐらいで責任って……まさか、女の裸を見るのは初めてだったとか?」

「えええと、私も大人なので、そういうわけでも……って、そうではなくて……」

「ンだよ、はっきりしないねっ!」

「ああああ、もう!」

 ヤヲがグッとミョネを抱き寄せる。形の整った唇が、女のすぐ耳元に寄せられた。

「『道具』なんて、酷いことを言う男なんか止めて、私にしてください。」

「?」

「私なら、ちゃんとあなたを女性として抱いて……」

「あああああ? ばばばば馬鹿ぁ!」

 『道具』の意味にやっと気づいたミョネが、ヤヲを強く突き飛ばす。

「そういう、そんなっ! カンケーじゃないよっ、あいつとは!」

「そうなんですか? はぁ、良かったです。」

 ヤヲの強張っていた顔が、へにゃっと崩れる。ちょっと情けない表情を覗き込んで、ミョネが呆れきった声音を立てた。

「あんた、顔は良いのに……色々と残念な男だね。」

「残念……ですか?」

「好きな女の『代用品かわり』に抱こうなんて、『道具』扱いよりも酷いじゃないか。」

「えっと……誰が誰を好きで、何が代わりなんですか?」

「とぼけんじゃないよ、あんた、姫サンが……!……」

 表から、数人の男たちが話し合う声が、ぽそぽそときこえた。

「ミョネ!」

「ああ、『お客さん』なんて、久しぶりだね。」



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