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「あんまり面白い話じゃないよ。」

 人の姿に戻ったミョネは、そう前置きした。

◆◆◆

 ラメーヤハ家は大錬金術師パラケルススの流れを汲むという、その道の大家であった。

 ただ、そんな家に生まれながらミョネに錬金術の才は全く無く、父はより優秀な弟にその知識の全てを授けようとしていた。


「つまり、ボクの事なんかはじめっから眼中に無かったのさ。」


 それでも母は姉弟隔てなく愛を注ぎ、弟も姉に良く懐いて遊び相手をせがむ……それは平和で幸せな日々だった。

 だが、戦乱がこの錬金術師一家を襲う。まだ年端も行かぬ弟は無残に殺され、ミョネを連れて命からがら逃げた母も、そのときの手傷が元で亡くなってしまった。


「父さんが壊れたのはそのせいさ。愛する妻と、跡継ぎとして嘱望していた息子が死んで、後に残ったのは味噌っかす娘、そりゃあ、壊れもするよね。」 


 人目を逃れるようにこの地に移り、妖しい研究を続ける父親……気遣いの言葉をかける娘とも目を合わせようとはせず、いつもぶつぶつと何かを呟く姿は、まさしく狂人の様相であった。


「だけど、狂ってはいても天才錬金術師。その研究は間違いなく完成しつつあったんだ。」


 ある晩、父の研究室に呼ばれた娘は、こわごわとその扉を開けた。

「父さん?」

 くるりと振り向いた父親は、実にすがすがしい笑顔を我が子に向ける。

「おお、ミョネ。長いこと心配をかけたな。もう大丈夫だ。」

 母と弟が死んでから、長いこと見無かった笑顔……娘の頬が喜びにほころんだ。

「何がもう大丈夫なの?」

「……もう、死を恐れなくて済むんだ……」

 異質な響きを含んだその言葉に、娘が震える。

「父さん? 何を言って……」

 不信の声をあげたその両手を、土くれの塊が掴んだ。

「!」

「怖がらなくていい。母さんの記憶を呪符プログラム化して、それを核に作り上げたゴーレムだ。」

「父さん! 父さんっ! 何を……」

「ミョネ、わしを憎め、憎んで憎んで……そして生きろ。」

 ぐっと、嫌なにおいのする液体をたっぷりと含ませた布キレが、父親の手によって鼻先に押し付けられる。

「ぐうううー、ぐううー!」

 それきり、娘の記憶は途絶えた。


「寝ている間に、ボクの体は錬金術によって作り変えられていた。そして、ボクを改造した張本人はさっさと死んで、ここでそうしてのんきに寝てるのさ。」


 それからの日々は地獄であった。何の訓練も受けていないただの娘が、いきなりの人体改造になど耐え切れるはずも無い。いきなり体に入れられた魔力への拒絶反応と、数倍に跳ね上がった身体能力とに苦しめられて、十数年の間は指一本動かすことさえ出来ない生活が続いた。

 そんな日々を支えてくれたのは母の記憶を持つ、あのゴーレムだ。彼女は献身的に身の回りの世話をしてくれ、毎晩のように懐かしい『母の』子守唄を聞かせてくれた。

「母さん。」

 心細いときに呼べば、

「なぁに?」

 返事が返ってくる。ただそれだけのことが何よりも心強かった。

 だが、魔力も体に馴染み、作り変えられた体の動かし方にも慣れてきた頃には、その娘は自分たちが『墓守』であることを知る。

 父がこの墓所に施した錬金術の全て……『賢者の石』化した母を依り代として、魔鉱石化した術者である父から魔力を送り続ける。それは永続的にゴーレムを動かすための布陣であると同時に、心無い錬金術師からその秘密を狙われる『永久動力』でもあった。

 この地を訪れ、墓を暴こうとするものがいれば、ゴーレムは母の人格を脱ぎ捨ててその侵入者を血祭りに上げる。そして娘も、そんなゴーレムを助けるために戦い方を覚え、刃と化した両手を血に染めあげていった……

◆◆◆

「錬金術師も絶えて久しい今では、この洞窟の秘密を狙うものはいない。それでもときどき、錬金術ロストテクノロジーのお宝が眠っていると勘違いした輩がここに来る。」

「その度に、戦い、傷ついてきたのですね。」

「はあ? そんな雑魚相手に怪我なんかするわけないだろ。ことごとく血祭りにあげてやったさ。」

「そうやって……心を傷つけてきたのですね。」


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