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粗末な小屋の狭い食堂には、明るい雰囲気があふれている。
テーブルに並んで座った若い二人の前に次々と料理を並べてゆくゴーレムは、始終ご機嫌でぺチャぺチャと喋っていた。
「……やだわ、ミョネったら……こんな素敵なカレシが居るなんて一言も言ってくれないんだもの。」
「いえ、べつに私は……」
テーブルの下で、剣化した指先がツンと太ももを突く。
「痛いです! 何を……」
「しいっ!」
ミョネはゴーレムには聞かせないように、小声で囁いた。
(ここにいる間だけでいい。あいつと話を合わせてやってくれ。そのかわり、今回だけは無傷で仲間のところに帰してやるよ。)
(それでケウィは納得するんですか。)
(ここへ来たのはあいつの命令じゃない。休暇だからね。文句は言わせないさ。)
(解りました。だけど、あなたの為ではありません。私の命の恩人である、あのゴーレムさんの為です。)
(それも言わないようにしてよっ! あいつは自分を本物の人間だと思っているんだから。)
食卓の支度を終えたゴーレムが、描かれただけの顔を笑顔の形にゆがめる。
「さ、食べて。あ、ちゃ~んとイタダキマスするのよ?」
食卓に並んだ料理は『田舎の母』風に少し濃いめの味付けだ。だが、素朴で飾り気のないそのおいしさは旅食に慣れた口に好ましく、ヤヲは勧められるままにおかわりの皿へ手を伸ばす。
「ダメよ、ミョネ、お野菜も食べなさいね。」
ゴーレムは煮付けた野菜の器を、ごとりとミョネの前においた。
「ちゃんと自炊してる? 母さんがいないからって、適当なものを食べていたりしたら、体を壊しちゃうわよ。」
「ちゃんと気をつけてるよ! ボクだって子供じゃないんだし。」
それはごく普通の親子の会話に聞こえる。
「どうですか、この子、ちゃんとまっとうな食事を作っています?」
突然に話を振られておろおろと箸を振るヤヲを、ミョネがかばう。
「お城ではちゃんと賄いがでるから、なかなか機会がなくって……でもでもっ、そのうち作ってやるからな!」
「ソれはタのしみデスね。」
少し不自然なヤヲの笑顔には気づかなかったのだろうか、ゴーレムの土くれの口元から、さらに笑みがこぼれた。
「……ところで、お母様は一緒に召し上がらないんですか?」
何気ないヤヲの言葉に、ミョネが飛びついて小声で怒鳴る。
(ばかっ! あの口を見ろよ、飯なんか食えるわけがないだろ。)
(す、すいません。つい……)
ゴーレムが、くぼんだ二つの穴をどこか遠くに泳がせた。
「最近、食欲が、無くて……?」
「母さんっ! 年だよ、年のせいだよっ。人間、年をとればそんなモンだって、お城のババアたちもよく言ってるよっ!」
鈍いヤヲにも解るほど明らかに、すう、とゴーレムに生気が戻ってくる。
「女の子が『ババア』なんて言葉、言っちゃダメよ。」
「うっさいな、ボクは剣士だよ。普通の女の子じゃないの!」
「そんな事を言って……カレシさん、この子を捨てないでくださいね。口は乱暴だし、男勝りだけど、本当は心根の優しい子なんですよ。」
「ええ、そうですね。」
それは演技などではない。ヤヲは心のそこからの素直な気持ちで答えた。
「あなたとのやり取りを見ていれば、本当は優しい女の子だと言うことは良く解ります。それに、お母さんの前だとちょっと甘ったれているあたりが、可愛らしいですね。」
ミョネの頬が真っ赤に染まる。
(ばばばば馬鹿っ! 演技過剰だ!)
綺麗な顔がきょとんと不思議そうに傾ぐ様に、ミョネが溜め息をついた。
「その顔でそんな事を言われちゃうと、女の子はみんなのぼせ上がっちゃうんだよ!」
「あなたもですか、ミョネ?」
「ぼぼぼぼボクはっ、別にっ!」
あわわわと手を振り回すミョネに、ゴーレムはあくまでも優しく微笑んでいる。
「ご飯が済んだら、二人でお墓へ行ってらっしゃい。ミョネにカレシができたことを、お父さんにも報告しなくちゃね。」
今まではしゃいでいたミョネの顔がさっと青ざめたのを、ヤヲは見逃さなかった。
「ミョネ?」
「……母さんがそういうなら、仕方がないね。ちょうど、二人で話したいこともあるし。」
その声は、固く冷たい……すぐ隣に居るはずの女がまた一歩、遠のいた気がして、ヤヲは黄金の瞳を伏せた。




