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 ドアの外で言い争う女たちの声に、ヤヲはふと目を覚ます。

「だって、酷い怪我をしていたから……」

 ほわんとした声音で、さもさも当然のように応えているのは、あのゴーレムのご婦人だろう。

「だからって、ボクのベッドを使わなくったっていいでしょ! ヤローなんて、床で十分なんだよっ!」

 ちょっとはすっぱで気の強い物言いは聞き覚えがある。

「それに、そんな得体の知れない男なんか拾って! もし墓泥棒だったりしたらどうするんだよ!」

「そんな悪いことをする人には見えないわ。とっても綺麗な男の人なのよ。」

「顔がキレイなら、腹もキレイとは限らないんだよっ?」

「それに、お城勤めだって言っていたわ。」

「ノーニウィヨの?」

 ドアの外でしばしの沈黙があった。

「綺麗で、お城勤めといえば……チノス様か、シッサクク様か……あああっ、『蒼空の魔道士』チイリシ様だったりしたら……どうしよう!」

 つらつらと並ぶ名前の中に自分が呼ばれないことに、ヤヲの中には微かな怒りの炎が灯る。

(別に、自惚れるわけじゃありませんけどね。)

 城内の女性達が『金の陽光』というあだ名を自分につけていることは知っている。自分とすれ違った娘達が、きゃあきゃあと嬌声を上げているのに気づかないほど鈍いわけでもない。ただ、ろくに見知らぬ相手からの賞賛など興味がなかっただけだ。

 だが、今ドアの前に居る彼女は違う。あれだけ激しく剣を交えた、良く見知った仲だと言うのに……

 控えめなノックと、取り繕った声。

「お加減、いかがですかぁ?」

 それがあまりにも可愛らしかったがゆえに、ドアを開けた彼女に向けたヤヲの第一声は鋭く、また、冷たいものであった。

「ご希望の『綺麗な男』じゃなくて、申し訳ありませんねぇ。ミョネ?」

「ヤヲ! てめえっ!」

 ぷるんと見事な胸を揺すって戦闘のために身構えた褐色の女が、両腕に音を立てて魔力を集める。

 ヤヲは傷ついていない左手一本で、ベッドに立てかけられていた愛剣を握った。

「片手で、でかいバスターソードは不利なんじゃないのかい?」

「そっちこそ、もう少しハンデが欲しいんじゃありませんか?」

「馬鹿にしやがって!」

 ミョネがちゃきっと、自身を構える。対するヤヲも、巨人斬フルンティングの刃をしゃきっと立てる……

 その緊迫のど真ん中に、なべ釜を抱えたゴーレムが飛び込んだ。

「ダメダメダメ! ダメよぉ、ケンカに刃物なんか使っちゃ……ええと、ミョネは、はい、これ。」

 と、古びたフライパンが剣化した腕に押し付けられる。

「あなたは……これね。」

 多少がたついたお玉が、取り上げられた巨人斬の代わりに握らされた。

「よしっ! ファイッッ!」

 審判ジャッジのように腕をクロスさせる無邪気な彼女を、ミョネが怒鳴りつける。

「ふざけている場合じゃないんだよ、『母さん』!」

「母さん? え、だって、こちらのご婦人はゴー……」

 フライパンを構えたミョネに視線をやったヤヲは、ぐっと『その単語』を呑んだ。いくら疎い彼でも、あからさまに浮かぶその不安げな、それで居て射殺すように睨み付ける視線の意味が解らないほどに馬鹿ではない。

「……随分と、似ていませんね。お母様のほうがお綺麗です。」

 ミョネの肩から、張り詰めていた力がほうと抜けるのが、彼にも解った。


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