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 ギギン、ギン、ギン……

 金属と金属がぶつかり合う。

 ミョネが下から蹴り上げた剣筋を、巨人斬が叩き落す。横から襲い掛かる右ひじを、くっと引いたつかで軽く受け止める……

 全ての攻撃を叩き落し、弾き返しながら、ヤヲはスライムの姉である、あの女剣士の一言を思い出していた。

(サクテさんは、ミョネが『泣いている』と言っていましたね。)

……こうして受け流せるほどになってはじめて解る。ミョネは間違いなく強い。

 どこからの攻撃も間違いなく皮膚に対して直角に打ち放たれる。こっちが避けようとすれば、その切っ先は空でひらりと軌道を変えて、あやまたず急所へと向けられる。

(でも、殺気が多すぎるんですよ。)

 殺そう、殺そうとする剣であるがゆえ、その動きを読むのは難しくない。

 また一つ、大動脈を裂こうとしたその刃をヤヲは叩き伏せた。

(確かに、泣いていますね。)

 悔しさに歯噛みしながら、再び大きく腕が振り上げられる。ただひたすらに、一途とも言えるほどに両手両足を振り回し、怒りの篭った力強い剣風を打ち込む姿は、願いの叶わぬ駄々っ子のように強情だ。

「ミョネ。」

 激しい打ち合いの最中だというのに、突然に放たれる静かな声。水面すらも波立たせぬような優しい響きに、呼ばれた女はびくりと身を引いた。

「何をそんなに泣いているんですか。」

「はあ? 誰が泣いているってぇ?」

「あなたです、ミョネ。何をそんなに怒っているんですか、何をそんなに悲しんでいるんですか、そして……何を苦しんでいるんですか?」

「はん! 残念だね隊長サン、ボクはごらんのとおりの生体剣リビングウェポン。泣くだとか、悲しむだとか、そんな人間みたいな感情は持ち合わせちゃいないよっ!」

「本当に? ですか。」

 ずいと一歩踏み出す男に気おされて、女はじり、と下がる。

「別にっ! ボクが泣いていようが、怒っていようが、関係ないでしょっ!」

「関係ありますよ。例え一時のこととはいえ、あなたは私の部下でした。」

「ばぁっっかじゃないの? ボクは始めっから間諜スパイとして潜り込んだんだ。あんたの仲間になんかなったつもりはないよっ。」

「あなたにとってはそうだったかもしれません。でも、『私』にとっては本当に大事な仲間でした。」

 ヤヲが切っ先を下げる。

「戻ってきなさい、ミョネ。苦しんでいるなら、話を聞いてあげます。役には立てないかも知れませんが、その位は……」

「お人好しめがっ!」

 ミョネが低く落とした体ごと、ヤヲに飛びかかった。素早く上がる巨人斬が、金属音をあたりに響かせてそれを受け止める。

 刃越しに顔を合わせながら、ヤヲが悲しそうに呟いた。

「残念です。」


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