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「なのに、合コンを取り付けてきたのか。」

 テントの陰で、スライムは二人の隊士と声を潜めて話をしている。

「来るのはそのガキじゃねぇよ。姉ちゃんがいるんだと。」

「いくつ、いくつ?」

「十八だ。」

「うおおおおおお!」

 二人の男が雄叫びをあげる。

 一人は人間の男、以前スライムが潜入のためにトレースした没個性の『隊員A』くん。もう一人は半馬人ケンタウロス、馬の体に立ち上がった人間の上半身はそれなりの見た目なのに、人が良すぎてなかなか彼女が出来ない『いい人』くん。

 もちろん二人とも『元気の有り余った男たち』の仲間だ。

「よし、さっそく皆にも……」

「ばか! 向こうは三人だって言っているんだ。男女の人数差を大きくすると、あぶれるものが増える。できるだけ人数を揃えるのがコツってもんだろ。」

「お前……行ったことがあるのか、合コン。」

「さあな。」

 にやりと微笑んだ彼の尻ポケットから、ばさりと解説草紙ハウツーぼんが落ちた。開いたページに踊る見出しは『攻略しつくせ! 男の合コン作法』

「……」

「………」

「ま、あれだ! そんな堅苦しいモンじゃなくて、気楽にオハナシでもしましょうって事らしい。」

「よしっ、もてるぞ!」

「おお、もてるぞ!」

「俺たちの底力、見せ付けてやろうぜ!」

 男たちはがっしりと手を組んだ。


 テントの床にばさりと布団を広げるその男の今夜のいでたちを、ユリはいぶかしんでいた。ヤヲの姿をいまだ解かない彼は、こざっぱりとした淡色のシャツにかっちりとした革のベストを羽織り、髪型もきちんと櫛で整えられている。

「スラスラ、お出かけ。」

「ああ、心配するな。今夜はヤヲが見張っていてくれる。」

「どこ?」

「ちょっとした飲み会だよ。村はずれに飲み屋があっただろ? あそこにいるから、何かあったら駆けつけてやるさ。」

 ユリがベストの裾をぎゅっと掴んだ。

「寝台。」

「傷が治るまでは無理だって言っただろ。」

 スライムが小さく口笛を吹いて、ユリのウィプスを呼び寄せる。

「ほら、これで暗くないし、布団だってふかふかだ。庶民はこんな上等な寝心地、知らねぇぞ。」

 王族である彼女の布団は上物のシルクで誂えられ、中綿にも安いコットンなどではなく異国の化物羊とうてつの毛をふんだんに使った贅沢なものだ。

 それでもユリは、手を離そうとはしなかった。

「あのなあ、俺にだって、たまには息抜きぐらい必要なんだよ。」

 細い指を一本ずつ解いて、スライムはユリの両肩に手を置く。

「この前教えたな? 夜は怖いもんじゃねぇ。虫も鳴いているし、お月さんやお星さんだって出てくる。それに……そうだ、蛍も出てくるだろ。」

「スラスラ、居ない。」

「それが普通だ。」

 スライムは、いつものように抱きしめることはせず、銀色の髪をぽんぽんと優しく叩いた。

「お前は女だから、本当なら眠るべき場所は『寝台おれ』じゃねぇ。好きな男の腕の中だ。急に慣れろとは言わないが、少しずつ、俺がいなくても眠れるようになったほうがいいだろう。」

 ぽん、と手を止めて、スライムは立ち上がる。

「ま、どっちにしろ怪我が治るまで寝台スライムにはなれねぇ。眠れないなら絵草子マンガでも読んでろ。」

 立ち去る後姿に冷たく取り残されて、ユリは布団の上にぺたんと座り込んだ。

「ナーサノーヒ=フアツノヤシ=イイヒク=ニーシウィトヨ=ノ=ラウェニーソミ(どこで、何をしても構わない。だから、せめて夜だけは)……」

 小さな体をさらに縮めて、強く膝を抱える。

 ウィプスは柔らかいピンクの明りで、震えるその姿を照らしていた。


おまけ


 外出の許可を取りに来た三人の男たちを、ヤヲはじろりとにらみつけた。

「合コン……ってなんですか?」

「あああああ、あれだ、あれ、『合成こんにゃく』の略称だ。なあ?」

「そそっそ、そうっすヨ。」

「水棲のスライムを干して粉末状にして、それを加工した食品だ。」

「共食いですね。」

「うるせっ! 俺を魔物と一緒にするなっ!」

「で? なぜわざわざそんなものを食べに行くんですか?」

「違いますよぉ、村の女の子たちと……」

「馬鹿ーっ!」

 スライムと隊員Aが、ケンタウロスの口を塞ぐ。

「婦人会だ、婦人会! 村の特産品にしたいから、ぜひ試食をって頼まれたんだ。」

(完璧だ。完璧すぎるぞ、スライム! そんな嘘を、よくも思いつくものだ。)

「そこで、腹が丈夫で、尚且つ戦力的にダウンしても問題ないヤツをピックアップした結果が、これだ。」

(素晴らしいぞ! 俺たちを無能扱いしているのはアレだが、合コンのためだ。許す!)

「村人との懇親のためにも、重要な任だと俺は思うぞ。」

「……解りました。許可しましょう。」

「さすがはヤヲ! 話がわかるな。」

 はしゃぐ三人に、ヤヲが飛び切り無邪気な笑顔を向ける。

「そのかわり、お土産に貰ってきてくださいね、合成こんにゃく。」

 はしゃいでいた形のまま、ぴき、と男たちが凍りつく。

「楽しみですねぇ、合成こんにゃく♪」

 ヤヲだけが飛び切りの笑顔で、ニコニコと笑っていた。


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