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……ユリとケウィのデートをセッティングしたのは確かに俺だ。

 だが護衛のためとはいえ、他人のデートについて歩くなど不愉快極まりない。

「おまけにクソ暑いしよぉ……」

 遮るものもない田舎道、強い日差しの下を歩くユリはチョーカーを外して、すらりとした大人の姿だ。スライムが見立ててやった淡いシフォンのロングスカート、白いノースリーブ、それにつばの広い帽子が、初夏の風景に描きこまれたように鮮やかに映る。

(荷物ぐらい持ってやれよ、トーヘンボクめが。)

 スライムは、ユリが細腕に下げている大きなバスケットを気にしていた。

 浮かれきった足取りで隣を歩くあの男のために、ユリが作ったサンドウィッチとお茶を持たせたのも、確かに自分だが……

(ま、初々しいっちゃ、初々しいか。)

 銀髪の男は緊張しきっていて、未だに手すら握らない。

 ヤヲと数人の隊士、それにいまだヤヲの姿のスライムは邪魔をしないように離れてはいるが、隠れるものとてない畑の畦をぞろぞろと歩く姿は、傍から見ても馬鹿馬鹿しいものだろう。

「俺、帰ろうかな……」

「何言ってるんですか! 勝手にデートの約束なんかしたのはあなたですからね、最後まで見守る責任があるんですよ。」

「あんな初心者丸出しの男に、ナニかできる訳もなかろうよ。」

「スラスラ!」

 本物のヤヲが、自分と同じ顔をしたその男をどん、と突き飛ばした。

「ユリ様は、あなたの恩人だから彼を無碍に出来ずに居るんですよ。」

「どうだかな。夕べはあんなにはしゃいでいたじゃねえか。」

「あなたは……馬鹿ですか!」

 確かにユリは始終上機嫌だった。長持をかき回して服を選ぶ彼の隣で、ずっと口角を上げていた。サンドイッチの具材は何がいいのかを、わざわざ彼に聞いていた。

 夜が更けても、自分の寝床へ行くことを拒むように、ずっと……

「見ろよ、お似合いじゃねぇか。」

 スライムの声に顔を上げれば、若い二人が木陰に弁当の包みを広げようとしている。木漏れ日をキラキラと反す銀髪の美男美女は、それだけで十分に美しい。

「陽にあたってたせいか、傷口が痛むんだよ。俺は一足先に帰るからな。」

 それ以上のヤヲの言葉を拒絶するように、彼は背中越しにひらひらと手を振った。


 ユリは出来上がった一切れを、真っ先に俺に味見させた。

 日差しの下を持ち歩くために俺がアドバイスした具材は塩漬魚アンチョビ。痛みやすいオニオンスライスの代わりにピクルスを細に刻んで入れることも俺が教えてやった。

 それだけで俺が望む以上の味が出せるのは、さすがはユリだと言うしかないだろう。

 パンに程よい塩気を感じさせるアンチョビの配分。丁寧に刻まれたピクルスは柔らかいだけのサンドイッチにこりっとした歯ごたえのアクセントを与え、ユリが隠し味に入れたマスタードがぴりっと舌先を引き締める……

「もう一切れぐらい、喰っておけば良かった。」

 あの絶品サンドイッチが全て、爽やかヤローの腹に収まるのかと思うと、何だか腹が立ってしようがない。

 むかつく気持ちをおさめようと畑道をぶらりぶらりと歩き回っていた俺は、道の向こうから追いかけっこをする子供たちが向かってくるのに気がついた。

 年のころはユリ【子供型】位だろうか、お下げを揺らして必死に走る人間の少女の後ろを追うのは、魔族の子たちが一人、二人……六人か。

 俺は真っ直ぐに向かってきた少女をばふっと腕の中に抱きとめ、立ち止まった魔族のガキどもを恫喝した。

「随分とオニの多い追いかけっこだなぁ、おい?」

 親分格なのだろう、体格のいい牛人間ミノタウロスの子供が悪びれる風もなく、ぐいっと角をあげる。

「追いかけっこじゃない。イケニエだよ。そいつを魔物の巣に叩き込むんだ。」

「ガキのクセに、えげつねぇ遊びをしているんだな。」

「喰われるやつがいけないんだよ。人間は弱くて役立たずのムシケラだって、父ちゃんが言ってたぜ!」

 俺はむかつく胃袋液の辺りを押さえた。

「別に、お前のうちの教育方針に口を出すつもりはねぇよ。だが、男として教えておいてやる。かよわい人間の女一人も守れねぇ男は、もてないぞ。」

 牛角を振り上げたガキが、背伸びして俺に精一杯の虚勢を見せる。

「へえ、おっさんは、さぞかしもてるんだろうな?」

「ま、俺ももてるタイプじゃねぇか……」

 片手で剣を抜き、足元を払う。ヤヲの腕力を持つ腕は大きなバスターソードの振り先に小さな風を巻き起こした。

 俺を中心に、ガキどものちょうど靴先すれすれまで、半円状に草を刈り上げる。

「……ガキ相手に本気になるようじゃあな。」

 にやりと笑って見せると、ガキどもはクモの子を散らすように走り出した。牛人間ミノタウロスにいたっては、足が恐怖でもつれるのか、数歩ごとに無様に転がっている。

「文句があったら、広場に来い。このヤヲ=ケネセッス様がいつでも相手になるぞ!」

 わざと隊長ドノの名を出したのは、どつかれたお礼だ。ザマぁミロ、ヤヲ! 

 俺は腕の中で震えている小さな女を、そっと下ろしてやった。

「一人で帰れるか?無理ならおく……」

「黒い騎士サマですよね。」

「は?」

「ごごご、合コン、しませんか?」

「はあああああ?」

 少女は低い目線からきらっきらした目で俺を見上げている。

 勘弁してくれ、何度も言うが、俺はロリコンじゃねええええええ!


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