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翌朝は眩暈がするほどに快晴。
スラスラはじめ『元気の有り余った男たち』は触手から救われた礼として、ケウィの調査に同行することとなった。
林を歩く銀髪の男はのんびりしたもので、何の警戒もしていないように見える。
「大丈夫ですよ。多少凶暴化はしているけれど、『兎』の魔物だそうですから。」
ヤヲの姿に黒い甲冑、腰にバスターソードを下げたスライムは、その言葉に眉を曇らせた。
「兎で、魔物って、まさか……」
草むらからぴょこりと飛び出す長い耳。それよりもさらに長く、ぴょこりとそそり立つ一本角……
「一角兎っ!」
しかも一匹だけではない。草むらから一本、木立の間からまた一本と角が立ち上がる。
「あれが兎なんて、可愛いモンかよ!」
「ええ? だって、あんなに愛くるしいじゃないですか。」
「あいつらは肉食だぞ。それになぁ……」
スライムが抜き構えた剣に向けて、一匹が飛び込んできた。鈍い音と火花。
鋭い角を弾き逸らしたスライムは、そのまま剣を構えた。
「もともとが、えらく凶暴な生き物だ。」
草を踏み分けて次々と現れる、角と牙を持つウサギ達。
「眼のいい奴は前へ! 仕留めなくていい、弾き返せ!」
鋭い声で隊員たちを配しながら、ヤヲの姿の中でごぽりと脳液があわ立った。
(こんなに大きく群れるわけが無い。)
一角兎は好戦的であるがゆえ、群れれば共食いする性質がある。
(誰かが意図的に集めたのか? 誰が?)
「スライム、あそこに!」
一人の隊員が指差すほうを見れば、背の高い草の間に見覚えのある褐色の肌が走り去った。
「ミョネ? くっそう、あいつの仕業か!」
「やばい、姫さんが危ない!」
「ユリにはヤヲがついている。心配するな! 今は目の前を切り抜けることだけ……っと!」
また一つ、角を弾き返した剣が火花を散らす。
「魔法攻撃のできるものは先頭を行け! 所詮は動物、炎にはひるむはずだ。火属性の術式を中心に組んでゆけ。」
ざざっと、数人の男たちが詠唱の陣を組んだ。
「後のものは二列に組んで、側を守れ、詠唱者にウサギを近づけるなよ!」
ずざざざっと武器を抜き放った男たちが動く。
「ケウィ、俺とお前はしんがりだ。できるか?」
ケウィがするりとレイピアを掲げた。
「よし、生きて帰ったら、ユリとデートさせてやるよ。」
「それは、頑張らないわけにはいきませんね。」
「おまえら、俺の理想は『一兵たりとて欠くことなく』だ! 全員で、この戦いをつまみに酒宴といこうじゃねぇか!」
『元気の余っている男たち』は、大きな鬨の声をあげた。




