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ユリが野営のテントに戻ったのは意外に早く、寝酒の杯は半分も減ってはいなかった。
「もう寝るのか?」
スライムは残りをくいっと一気に煽って、だらりと体を広げる。
ユリが小さく口笛を吹くと、ピンクのウィプスがフイと現れ、テントの中を仄かな光で照らした。
「楽しかったか?」
弾力に沈む小さな主に尋ねれば、満足げな声が返ってくる。
「話、たくさん。」
「良かったな。」
銀髪をさらりとなでられて、ユリは安心しきったように体重を預けた。テントの脇で、草むらの虫たちが夜を歌う声が、小さく響いている。
「スラスラ。」
「ん?」
「音?」
「虫の鳴き声だ。怖いか?」
首を横に振りながら、銀の瞳が眠りに閉じてゆく。
「ユリ、夜は怖いだけじゃねぇ。虫は優しく鳴いているし、お月さんやお星さんが真っ暗にならないように見ていてくれる。」
「蛍。」
「よく覚えていたな。そうだ、蛍もいる。」
「スラスラ、居る……」
「いや、俺は……」
軽い寝息を立て始めたユリの姿に、スライムは少し寂しそうに揺れた。
「今はまだ、一緒に居ても……いいか?」
既に夢の中にいるユリには聞こえない小さなつぶやき。
表では、月に浮かれてメスを誘う虫の声が響いている。ウィプスがその声にあわせるように、ゆらりゆらりと揺れながら小さな寝顔を照らしていた。




