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力尽きた隊士が一人、また一人と触手に捕らえられ、吊るされてゆく。
(策は! 何か策は無いのか!)
炎系魔法の火力をもってすれば、触手基ごと焼き払うのは簡単だ。だが、洞窟という地形を考えれば、自分たちもこんがりと焼けて死ぬのは必至。
何とか突破口を開いたとしても、捕まった彼らを犠牲にして逃げ出すのは……
(一兵たりとて欠くことなく……か。)
己の信念を貫かんと、ぐにゃりとヤヲに姿を変える。
「……つっても、中身は俺だ。期待すんなよ。」
足元の剣を拾い、すう、と構えたそのとき、入り口を塞いでいた触手が音も無く真っ二つに割れた。
「!」
振られた剣が巻き起こす風が小さなつむじとなってスライムの隣を吹きすぎる。その風塵と共に飛び込んできた金髪に、男たちは百万の軍を得たかのように歓声を上げた。
「隊長!」
しかし、スライムだけは続いて入ってきた男に一瞬の不信を向ける。
(婚姻外の子?)
短く刈り込んだ銀髪は魔力の色に輝いている。
(誰でもいい。今は地獄に仏ってヤツだ。)
二人はがっと力強く剣を構え、天井いっぱいに蠢く触手を見据えた。
「ヤヲさん、先ほど教えたとおり、触手基を狙ってください!」
「解っていますよ! 援護はお願いします。」
巨人斬の剣鳴が洞窟内にこだまする。銀髪の男は細剣を器用に操り、ヤヲに迫る触手を数本まとめて刺し貫いた。
ごう、と、あたりを揺るがすほどに巨人斬が唸り、ヤヲの体は華麗に中空に舞い上がる。ごぽりと軟性の音が響き、巨大な触手基が真っ二つに切れる。
緑色の血を噴出しながら、力をなくした魔物は掴んでいた獲物を放し、だらりと岩壁から剥がれた。
「ヤヲ、危ねぇっ!」
その声よりも早く、只一筋の残像と化した閃光が垂れ落ちる肉塊を細かに切り刻む。
砕片となって降りかかる肉の雨を、しぱぱっと小気味良い突きの衝撃波を響かせて、細剣が吹き払った。
「助かった……」
ぐったりと座り込む男たちの上に、ヤヲの怒号が飛ぶ。
「まったく、何をやっているんですか!」
「ううう、だって、触手が……」
「随分と元気が余っているようですね。ヌクチヒの村まで、荷馬車でも引いてもらいましょうか。」
金色の瞳の冷たさに、男たちは小さくなってうなだれた。




