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 街の外まで子どもを引きずってきた『隊員A』は、ヤヲにその小さな半魔半人を預けると、ぶるぶると震えた。

「マヂで怖かった……」

 スライムに戻って崩れ落ちるその姿に、捕らえられた子供がフフンと鼻で笑う。

「なんだ、魔物スライムかよ。」

 ぶるぶると震えが止まらない体を、ユリとメグが支えた。

「たったこれしきのことで、情けねぇよな。」

「情け、ある。」

 ぎゅっとしがみつく銀髪を、ずるりと伸ばした体が優しくなでる。

「おかしな言葉を使うんじゃんねえよ。『情けなくない』だろ。」

 暴れる子供を押さえつけていたヤヲが叫んだ。

「いちゃついてないで! この子供はどうするつもりですか。」

「離せ! この変態魔物どもが! お前らもスライムなんだろ!」

 その鼻先に、スラスラがずるりと伸び上がる。子供は恐怖に身を引き、言葉を呑んだ。

「おい、ガキ、水棲の魔物ぶよぶよが喋れるかよ。俺は魔族だ。」

「どっちでも構わないよ、オレをどうするつもりだ!」

「俺はユリみたいに優しくは無いんでな。せっかく手に入れた貴重な情報源を手放してやるつもりは無い。」

「情報……源?」

「心配するな。俺たちは味方だ。」

 魔力の瞳に涙があふれる。

「み、か、た……?」

「魔王軍4000の兵士がもうすぐ到着する。良く一人で頑張ったな。」

 安堵の涙が、その頬を伝い落ちた。


 宿へ連れ帰ったその子供は、あくまでも気丈な態度を崩さなかった。

 人間である父が昨年死んだこと。半分魔族である彼を街の人間は冷たく追いたて、半分人間であるがゆえにスラムにも暮らせず、浮浪児となったこと。そして驚くことに彼は母を捜すために神殿に忍び込んだことがあった。

 目的の母親には会えなかったらしいが、神殿内に確かに囚われている魔族たちと、そしてロストテクノロジーが間違いなく存在するという情報は、スライム達にとっても青天の霹靂であった。

 

 小さな情報屋はソファに身を横たえ、安堵と疲れに沈み込んで眠っている。

 ヤヲとスライム、それにサケヤは、声さえ遠慮しながらぼそぼそと話し合っていた。

「でっかい筒状の発掘物か。」

 サケヤが眉根を顰める。

錬金術ロストテクノロジーが何故廃されたか、それはせっかくの技術を兵器の開発に傾けすぎたからだ。もし、それが本当に兵器として開発されたもので、そのガキが言うように神殿の地下いっぱいの大きさだとしたら、とんでもない代物だぞ。」

「ロストテクノロジーに強いんだな?」

「ああ、メグの親父に一通り叩き込まれたからな。」

「弟子ってことか。」

「ンな上等なモンじゃない。確かに弟子入りを望んだのは俺だが、あいつの家は母親を病気で亡くしているからな、体のいい家事手伝いってやつだ。」

「まあ、ロストテクノロジーは本来、人間の技術だ。だが、大量の魔力を必要とするらしいからな。人間の知恵と、魔族の魔力を兼ね備えた半魔半人には、むしろ得意分野だろうよ。」

 スライムは天を仰いだ。

「そのお前ですら、それがどんな兵器なのか解らない。」

「しかも、メグの親父があちらに落ちている以上、修復は進んでいるはずだ。」

「迂闊に攻めれば手痛いしっぺ返しを喰らう……」

「くっそ! メグの親父がせめて正気でいてくれれば……」

 ばん!と勢い良くドアが開いた。

「サケヤのばかっ! 父さんは正気に決まってるじゃない。そんな悪いことに手を貸したりなんか、絶対ぜーったいしないもん!」

「メグっ! 聞いていたのか?」

「ユリまで! ガキは寝ろって言っただろ!」

 二人の少女の後ろから、今日はマダム風の人間を模ったコワが入ってくる。

「総指揮官をのけ者にして、何が作戦会議よ。」

「……それは……」

 コワは声を潜め、スライムだけに囁いた。

「あんた、公私混同も甚だしいんじゃない? あんたはあの子のオトコになりたいの? それとも、『寝台』なりたいの?」

 スライムは、既にチョーカーをつけて小さくなったユリを振り見る。ちょっと戸惑いを含んだ銀の瞳がじっと見つめ返していた。

「ユリは……俺の主だ。」

 彼は主に対する敬意をもって、その足元に跪く。

「ユリ、命令してくれ。俺はお前に従うのみだ。」

 主の威厳をもって、ユリが口を開いた。

「作戦、ある?」

 ごぽりとスライムの脳液が音を立てる。

「まずはそのロストテクノロジーがどれほどのものか、誰かを潜入させる。潜入のヒントは、そのガキがくれた。半魔半人は、魔力量を調節することによって魔族の姿になれるらしいな。」

「ええ、例えばこんな風に。」

 しゅおっと小さな魔力の音を立てたヤヲに、スライムは怪訝な顔をした。

「早く変化して見せてくれよ。」

「しましたよ! ここ、ここ。」

 指差した耳先はなるほど、確かに尖っている。

「変り映えしねぇな。」

「いいんです。見る人が見れば、ちゃんとエルフなんですから!」

「まあ、脳筋ヤヲを潜入させても仕方がねぇ。ここはサケヤに行ってもらおうと思う。」

「適材適所ってやつだな。」

 気安げな笑いを浮かべるサケヤの胸に、メグが飛びついた。

「一緒に行く! 私だって、ロストテクノロジーについては一通り勉強したし、テキザイテキショってやつでしょ!」

「ガキの遠足じゃねぇんだ。危険なんだぞ。」

 スライムも、何時に無く厳しい声で少女を諭す。

「作戦である以上、甘やかしてはやれない。お前の親父らしき人物は魔族に鞭を振るい、容赦なく病人までこき使うような男になっているらしい。」

「嘘だ! 父さんが……」

「何らかの洗脳を受けているとしたら、お前の知っている親父さんではない。そんな思いまでして、わざわざお前が行くことは無いだろう。」

 しかし少女は揺るぎない眼差しをあげた。

「父さんに会いに行くんじゃない。サケヤのサポートのために行くんだから。」

「解った。連絡係として、ユリのウィプスをつけてやる。」

 頷いた少女は、しゅおっと小気味よい音を立ててやたら大きな黒猫へと姿を変えた。

精霊猫ケット・シーか!」

「可愛いだろ、惚れるなよ。」

 サケヤも既に牙をむき出し、肌の色も不自然に白い、本物の吸血鬼になっている。

「へえ、見事なもんだな。」

 感心しきりのスライムに、ヤヲが声をかけた。

「別に珍しいもんじゃありませんよ。」

「いや、半魔半人の知り合いってのは今までいなかったからな。」

「ああ、友達、少なそうですもんね。」

「ううう、ふざけていないで、お前はどこかで街の地図を手に入れて来いよ!」

 ユリがくいっと柔らかな体を引っ張る。

「お前は総大将だ。ここで全ての情報を整理し、次の作戦をたてる。心配するな、俺がサポートしてやる。」

 ずるりと小さな主を抱き上げる弟スライムを見て、コワは小さな溜息をついた。

「本当に意地っぱりなチビちゃんね。」


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