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10

 密談の場に入れてもらえなかったユリは、サケヤの部屋で書棚に並んだ『Vヴァンパイア・バスターズ』を読みふけっていた。傍らにはお目付け役として、メグが寄り添っている。

 この部屋に入ってからずっと……いや、入る前からずっと、メグはあることを思い悩んでいた。

(うううう、二人きりなんだし、聞いても……いいよね?)

 やっと覚悟を決めたメグは、思い切って声を発する。

「……お客様と、あのスライムの方は、カレカノという御関係ですか?」

 銀の瞳は、絵草子マンガから離れない。

「婚姻、予定。」

「ええと……婚約者ってことでよろしいんですか? それはやっぱり、スライムの方がロリコ……」

「スラスラ、ロリコン、違う。」

 ユリはやっと顔を上げ、自分の首に巻きついたチョーカーを指し示して見せた。

「ユリ、子供、違う。」

「それは、魔具? ってことは、つまり……あああああ、詐欺られたああああ!」

 メグの口調が明らかに荒れる。その鼻先に、一冊の絵草子が突きつけられた。

「好き?」

 表紙に描かれたキザなポーズの男は、黒髪セクシーなサケヤに良く似ている。

「そうよ、好きよ! だから、参考になる話が聞けるかなって思ったのに!」

 ツンと甲高い女の子特有の声。生意気そうに鼻先を上げたその姿は、取り澄ました接客用の笑顔よりもずっと……

「可愛い。」

「はあ? 唐突に、何言っちゃってるの!」

「恋する、乙女。」

 ぼぼぼぼぼっ、と、メグが赤面する。

「べつにっ! 恋とかそういうんじゃなくてっ! 幼馴染だから居るのが当たり前って言うか、居ないと寂しいって言うか……」

「好き。」

 再び突きつけられた絵草子を、メグが手に取った。

「無理なんだモン。サケヤにとって私はいつまでも、師匠の家のチビ娘で……」

「『キスより先はR‐18』!」

「それって少女系恋愛絵草子しょうじょまんがじゃない。どれだけ絵草子好きなのよ。」

「愛、歳、乗り越える。」

「絵草子ならね。現実には、72年の差って言うのは大きいわよ。サケヤはお嫁さんをもらってもおかしくない歳なのに、私は未だに……」

 ようやく発育を始めたばかりの、小さく頼りない胸元に手を当てるその姿に、ユリも自分の胸を押さえる。

「デカイ、いいこと。」

「ああ、サケヤも言っていたわね。『1にオオキサ2にオオキサ、3、4が無くて5にカタチ』って。」

「最低。」

「本っ当、オトコって最低よね。」

「でも、好き?」

 メグが、ぼっ、ぼぼぼぼっと再び赤面した。


 さて、越後屋と悪代官のような笑い声でヤヲに指示を出していた男たちは……出来上がった報告書を真ん中に、がっしりと握手を交わした。

「これで、調査隊すら送らないってわけにはいかなくなったわけだ。」

「感謝するぞ、スライム。」

 スライムが手のひらをずるりと這い上がり、華奢な腕に巻きつく。

「感謝なら、カラダで払ってもらおうか?」

「待て! 何をする気だ。」

「知れたことを……」

 肩口まで這い上がったぶよぶよの生き物は、サクテの洋服の中にするりと滑り込んだ。

「……トレースに決まってるだろうが。」

「止めろ! お勧めしねぇ。ダムピールの体ってのはなぁ!」

 彼が叫んだときにはもう、スライムは妖しい色香を纏ったダムピールへと姿を変えていた。しかし、がっくりと片膝をつく。

「ぐううう、なんだ、この体。めちゃくちゃ重てぇ!」

「だから止めたのに……俺たちダムピールってのは異常に魔力が高いからな、魔力で体を動かせるぶん、筋力がほとんど無いんだ。」

「だが、この外見パッケージは魅力的だ! 十分に使い道がある!」

 美しい赤い唇が、にやりと笑った。


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