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「国にあげる報告書だ。ある程度の信憑性は必要だろう。」
とは、スラスラの言葉だ。
「あまり深入りすンじゃねぇ。お前も責任を被ることになるぞ。」
サケヤの言葉に、スライムはにやり顔を外皮に浮かべる。
「俺がンな善人に見えるか? 適当なところで手を引かせてもらうさ。」
そんなスライムと、おまけのように引っ付いたユリを、サケヤは吸血鬼が眠る地下室へと案内した。
「へえ、吸血鬼ってのは、棺桶で眠るもんだと思っていたよ。」
「絵草子の読みすぎだ。死人じゃあるまいし、あんな狭いところで眠れるかよ。」
だらしない寝相と極彩色の寝巻きが笑いを誘うその男を、息子は揺すった。
「親父、お客様がガイドをご希望だぜ。」
「ふぬぬぬぬ……あと五分……」
「俺だってヒマじゃねぇンだ。さっさと起きろよ!」
「ふ、ZZZZZZZZ」
「寝意地の汚い……」
華奢で優雅な指が素早く動き、上着の下から太い杭を取り出す。
「……ならばっ! 永遠の眠りにつくがいいっ!」
ざん!と音立てて突き立てられた杭は、シンの鼻先を微かに傷つけた。
「ひいいいいい、起きました! ばっちり目が覚めました!」
呆れ顔で一部始終を見ていたスライムが、ごぼりと声をあげる。
「お前、親父の扱いが酷くねぇか?」
「仕方ないだろう、俺はダムピールだぜ。」
妙に芝居がかったポーズをつけながら、サケヤがセクシーヴォイスで言い放った。
「この身を闇に産み落とした親を呪い、滅するが我がサダメ……」
ユリがうわずった声で叫ぶ。
「V・バスターズ!」
「この、絵草子かぶれどもがっ!」
スラスラは知っていた。それが最近、巷で流行の伝奇絵草子のタイトルであることを……なるほど、黒髪、色白、攻撃的な眼差しのサケヤは、確かに絵草子の主人公に見えなくも無い。
「……似てるって、絵草子のキャラにかよ。」
「4200イケメン」
「はあああ? 4000越ええええ!」
ごぼごぼっと音立てるスライムに、ダムピールは怯えて震える親父を突きつけた。
「ガイドは起きたぜ。だが、スラムに何があるって言うんだよ。」
「カワイソウナ子供ってのは、同情を引くには一番効果的なんだよ。」
ずるりと伸び上がって笑うスライムを、ユリが引っ張る。
「行く。」
「お前は留守番だ。危ないからな。」
「民、知る。王、務め。」
「ああ、確かにな。民を知るのは、王になるものの務めだ。だがな、今回ばかりは危険すぎる。俺は絶対に反対だ!」
「行く!」
「ぜっ~たいに行かせねぇっ!」
外皮を赤く染めて怒鳴るその姿に、ユリがつぶやいた。
「ヤヲ(お兄ちゃ~ん( 」´0`)」)」
ずだだだだだっと、派手な足音が駆け込んでくる。
「どうしました、ユリ様っ!」
「ヤヲ(お兄ちゃん、お願いm(._.)m )」
「スラスラ、お願いですっ!」
「ヤヲ、お前はそんなんでいいのかよ……」
スライムはごぼりと溜息をついた。
「解った。そのかわり俺が危険だと判断したら、最優先で逃げろよ。」
「感謝。」
ユリがぼよりと揺れる体に飛びつく。あまりに無邪気な未来の『王』の姿に、スライムはゴボゴボと、さらに溜息をついた。




