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 サケヤはスライムを自分の部屋に招いた。

 男二人で差し向かい。隠しておいた取って置きの酒がスライムに振舞われる。

「いや、俺だってロリじゃねぇよ。」

 必死で言い訳するサケヤの言葉を、スライムは敢えて無視した。

「おお、サツハ=シンミーク……しかも大吟醸かよ。いい酒飲んでるなぁ。」

「なあ、聞けってば!」

 ぶよりとしたカラダを、華奢な指がぐいと引っ張る。

「俺は、何ていうの……そう、あいつの父親代わりになってやりてえんだよ。」

「父親ってのは、セクシーヴォイスで囁くものなのか?」

「しょうがねぇだろ! それが地声なんだからっ!」

 ダムピールは黒髪をがしがしと掻き乱し、大きな溜息をついた。

「あー、もうっ! その通りだよ! 惚れてるよ!」

「やっぱり、ロ……」

「誓って言うが、ロリコンじゃねええええ! 寧ろ俺は、でかい方が好きだ。」

「そこはでかくて、こっちはきゅっと締まってて?」

「そうそう。ンで、とどめはプリンとしていて、むっちりで……」

 男たちの手つきが、中空に『理想の曲線』を描く。

「だいたい、メグとはガキの頃からの付き合いだ。オシメだって替えてやったんだぞ。イカガワシイことをする気にゃあ、なんねぇよ。」

「でも、惚れているんだろ。」

「そういう『惚れている』じゃねぇよ。あいつの父親代わりになってやりたいってのも、間違いのない事実だ。」

「嫁にでも出す気かよ。」

「あいつが幸せになれるなら、な。別に相手が俺じゃなくてもいいんだ。」

 サケヤがいずれ訪れる寂しさに、瞳を曇らせた。

 スライムは気づかないふりをして、ちみりと酒を嘗める。

「……で? 俺をここに呼んだのは、コイバナをするためじゃねぇだろ?」

「もちろんだ。お願いがある。」

 彼はピシッと姿勢を正し、深く頭を垂れた。

「人間の王でも、魔の王でも、どちらでもいい。ツンノーンの街に調査を寄越すように進言してくれ。」

「ユリを利用しようっていうのか?」

「そういうことになるな。でも俺は、不幸な子供達をこれ以上増やしたくは無い。」

 スライムは飲みかけのコップをコトリと置き、サケヤに向き直る。

「俺はただの新兵だぜ。そういうことはヤヲに頼めばいい。」

「あの男はまじめそうだからな。いきなり自分で街に乗り込みかねない。」

「お前も、『見回り』に行けば良いじゃねぇかよ、親父みたいに。」

「気づいていたのか!」

「いくら客引きのためとはいえ、あんな時間に吸血鬼が出歩くのは不自然すぎる。まして今のツンノーンを魔族がうろつくなんざ、自殺行為じゃねえか。」

「思ったとおり、あんたなら話が解りそうだ。」

 サケヤはコップの隣に、ごとりと銃を並べた。

「あんたは、俺の流した情報に踊らされてくれれば良い。」

「こんなちゃっちいおもちゃが、何だって言うんだよ。」

「こいつは確かに俺が掘り起こして整備した、ただのおもちゃだ。だがツンノーンの地下には、国を丸ごと吹き飛ばすほどのロストテクノロジーが埋まっているという噂がある。」

 サケヤは、コップに酒を注ぎ足す。

「街がおかしくなったのは、ロストテクノロジーを掘り起こそうとしている奴らの仕業だ。奴らはそれを使って、国家転覆を目論んでいる。」

 だがスライムは、酒の満たされたコップに手を伸ばそうとはしなかった。

「でもなぁ、所詮は噂だろ?」

「大筋は間違ってねぇと思うぜ。メグの父親は行方不明になった『人間』の一人だがな、ロストテクノロジーの研究者だった。」

「!」

「それに魔族が消えたあの夜から、神殿の一部が立ち入り禁止になっているんだ。」

「まさか、ウラは取れてるんだろうな?」

「いや。あの街中を調べるには、魔族やダムピールじゃ分が悪い。あくまでも俺の推理でしかない。」

「国まで担ぎ出して、何も無かったじゃ済まねぇぞ。」

「そン時は知らん振りして、俺を差し出せばいい。国をたばかろうって言うんだ、それなりの覚悟はできているさ。」

「おかしな話だな。お前のメリットがちっとも見えねぇ。」

「メリットならある。ガキどもの親だって、死んだと決まったわけじゃない。街が解放されて親が迎えに来れば、俺もあいつらの世話から解放される。」

「メグはどうするんだよ。父親代わりになってやるんじゃないのか?」

「あいつの親父は死んでないよ、絶対にな。本当の親父が帰ってくるなら、そっちのほうが良いに決まってる。」

「ふん、惚れた女のため、か。月並みだな。」

 ずるりとした体がコップを掴む。

「……だが、嫌いじゃない。美味い酒も飲ませてもらったしな。」

「じゃあ!」

「あまり期待するなよ。俺はご覧の通り、『役立スライムたず』だからな。」

 それでもダムピールは、これ以上ないほどに深く頭を下げた。


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