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夕飯のために食堂に降りたスライムは、小さな給仕にすっかり感心した。
揃いの制服に身を包み、食堂にあふれかえる隊員たちのために動き回る彼らは姿勢も美しく、何よりも手際がいい。抱えるような大皿をてきぱきと配膳して歩く姿は、優秀そのものであった。
「あのダムピールが自慢するのも、納得だな。」
入浴後、寝酒を求めてふらりと食堂に足を踏み入れたスライムは、片付けと仕込みのために未だ動き回る小さなスタッフ達を見て、ほとほと感心しきってしまった。広い食堂にもう客はいないというのに、子供達の表情は明るい笑顔で満ちている。
「楽しそう。」
小さく頬緩めるユリにスライムも頬液が緩むのを感じた。
「高級ホテル『並み』どころか、『以上』じゃねぇかよ。」
ユリを抱えて部屋へ帰ったスライムは、ピシッと整ったベッドメイクを見てさらに感嘆のうめきを上げる。
「完璧だ。」
きちんと洗濯された真っ白なシーツには皺一つない。角まで手を抜かずにきちんと折り込まれ、枕さえもが細心の心遣いを持って真っ直ぐに配置された様子は清潔感にあふれていた。
「寝台として、負けている気がするっ!」
ずるりと床上に落ち込んだ弾力に、ユリがポンと飛び乗る。
「スラスラ、快適。」
「お前だけだろうよ、ンなこと言うのはよ。」
ユリの形に添うように、ブヨリとした生物が優しく体をくぼませる。
そのとき、ドアをノックする音が聞こえた。
「だれ?」
「ああ、さっき頼んだ酒だろうよ。」
ドアを開けて入ってきた半魔半人の少女が、明るく輝くライトブラウンの髪を揺らして金切り声を上げた。
小鳩会館随一の優秀スタッフ、メグはここの子供の中では年かさである。だが、36年生きているとはいえ、人間の歳で言えば13歳。まだ幼い彼女が見るにはあまりにも破廉恥な光景が、そこにはあった。
銀髪の少女を飲み込もうと、ずるりブヨリと蠢く下等生物が体を広げている。腕を掴まれてでもいるのか、恐怖に凍りついているのか、その少女はスライムにされるがままに……
メグの小さな手が、簡単な陣を結ぶ。
「ノン=シ(点火)!」
「あっち! 熱っい!」
外皮の表面を小さく焦がされたスライムは飛び上がり、ユリから離れた。
「お客様、こちらへ! どこから入ったか知れませんが、この野良スライムは私めが……」
再び陣を結ぼうとする細腕を、やっと駆けつけてきた半吸血鬼が掴む。
「メグっ! こいつも客だ!」
「えええっ、スライムよ?」
「この辺りじゃ水棲の『魔物』しかいないけどな、こいつは外皮を持った、れっきとした『魔族』だ!」
「しっ! 失礼いたしました。」
「すまねぇな。こいつは街っ子だから、スライムってのは皆『魔物』だと思ってるんだよ。」
サケヤは笑いながら、小さな客室係を抱き上げる。
「お前も、こんなところで魔法なんかぶっ放すんじゃねぇよ。危ないだろ?」
甘く、優しく耳元でささやく姿が、騒ぎに集まってきた隊員たちをざわめかせた。
「ロリコ……」
スライムが脊髄液反射的に振り向く。
「俺はロリじゃねえええええ!」




