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 世界一平和な場所……人と魔族の和合の街ツンノーン。

「なんてのは、表向きの話だ。」

――大地に最初に現れ、世界を成したのはフンゾン神だった。フンゾン神から生まれた『人間』は人間同士で番い、世界は『家族』で満たされた。

 だが、神であるフンゾンに番う相手は居ない。フンゾンは自分の影から番いの相手を作り出した。それが即ち、イターセ……

 その神話の成り立ちからか、この街では古くから人間のほうが、魔族よりも偉いとされていた。はるか昔には人間が魔族を支配し、奴隷として使役することもあったらしい。

 もっとも、そんな悪習は当の昔に廃れ、人間上位を訴えるのは古い神話にこだわる神職だけだが……

「そりゃ、ちょっとしたいざこざはあったさ。犯罪が起きれば真っ先に調べられるのが魔族だったり、歌い手グループの中央歌手センターポジションに魔族は絶対になれなかったり……でも、まあ一般生活レベルではノーニウィヨではありがちな、『よき隣人』って関係だった。」

「その関係をぶち壊すような、何かがあったってことだな。」

「するどいな、スライム。始まりは人間が何人か、街から消えたことだった。」

 最初にいなくなったのは、人間上位を強く訴えていた神殿の最高神官だった。その後も次々と『人間』が消えた。魔族蔑視で有名な豪商、人間優先の法案を作った街の顔役、魔族とセンター争いを繰り広げた人気歌い手……

「胡散臭い話だな。誰かが魔族に罪を着せようとしてンのがバレバレじゃねぇか。」

「ああ、だがここのやりかたは『まず魔族を疑え』だ。」

「もちろん証拠が出たんだろ、『魔族』のところから。」

「本当にするどいな。」

 証拠が出たことで、魔族と人間の溝は広がった。

「そして、それからは無差別に人が消えるようになった。」

 魔族とは友好的だった男も、寧ろ擁護派だった女史も……

 街に不信と疑心があふれ、人間は魔族を恐れ、さげすんだ。そんな人間たちの態度に、魔族も不満を募らせてゆく……その均衡が崩れたのは、10年前のある晩のことだった。 突然、魔族たちが暴れ、街を壊し、人間を襲った。

「ここまで伝わってくるのは噂だけだ。だが、その噂によると暴れる魔族たちから人間を守るため、フンゾンの神像が動いたらしい。」

「冷静に考えりゃ解るだろうよ。ただの石像は『自分で』動いたりはしない。」

「噂の真偽は俺も知らねぇ。確かな事実は、その夜、街の全ての魔族が子供を残して消えたってコトだ。」

 一夜明けると、大人の魔族は誰一人として街に残っていなかった。残された子供達は街の外に追い出され、貧民窟スラムを作って暮らしている。

「で、そのスラムのガキを拾ってきたのか。」

「ここに泊まった客の子供だって言ってンだろ。その日以来、街を訪れた魔族が消えるなんて、ざらになっちまった。」

「一体、誰の仕業なんだ?」

「ンなことが解るほど優秀なら、こんなところで宿屋なんかしていないさ。」

「確かに、な……」

 ふと目を上げたスライムとダムピールは、ぽかんとしているオヤジと隊長に気づいた。「なんて顔してンだよ。」

「いえ、随分と気が合うようで……」

「ノーミソ茹だってンのか、オヤジ。ついさっき会ったばっかりのやつと、気が合うとか合わないとか、解る訳がないだろうよ。」

「そうだな。そういうのはゆっくりと付き合ううちに解るモンだよな。」

 スライムとサケヤは、立ち上がった。

「ともかく、部屋へ案内してやるよ。その嬢ちゃんと同室でいいんだな。」

「おう、寧ろ別室じゃ困るんだよ。」

 スライムがずるりとユリを抱き上げる。

「随分と仲がよろしいようで、ご夫婦ですか?」

「ばかっ! 俺は……」

「本気にするな。おもてなしの心得その弐、カップルを見たらとり合えず夫婦って言っておけ、だ。」

 遠ざかってゆく笑い声を聞きながら、吸血鬼が気の毒そうな顔をヤヲに向けた。

「お互い、苦労しますなぁ。」

「ええ、本当に……」

 ひときわ大きな笑い声が、階段を上ってゆく。二人は大きな溜息をついた。


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