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15日までに間に合ったよおおおお!


 街の中心に作られた円形神殿ストーンヘンジ。その中に仲良く向き合わせに置かれた二体の神像は、ノーニウィヨで最も広く信仰されている対になった二柱の神……人間を現すフンゾン神と、魔族を象るイターセ神……それは魔族と人が入り混じって暮らす、この世界そのものを象徴している。

 訪れる者を等しく迎え、フンゾンとイターセの子である半魔半人を祝福するための聖地……世界一平和な場所……人と魔族の和合の街、聖遺都市ツンノーン。

 巡礼の地でもあるこの街での宿探しはさして難しくはない……はず?


「何故ですか!」

 ヤヲの怒鳴り声が受付フロントから響く。

 ドアの外でそれを聞いた、スライムはさほど驚きはしなかった。

(やっぱりな。)

 隣に立つユリは相変わらずの無表情だが、微かな疲れに眉間が曇ったように見える。居並ぶ隊士たちは明らかな落胆を、溜息と共に吐き出した。

「もういいです!」

 乱暴にドアを開けて、ヤヲが宿から出てくる。

「今度は、何て言って断られたんだ?」

 スライムの言葉に、ヤヲは地面を踏み鳴らしながら答えた。

「魔族は臭いから、その魔族と行動しているような臭い人間もお断り、だそうですよ!」

「一番ひでぇな。」

 何件かを回った後ではあるが、どの宿の答えも『魔族以外は泊めてやる』だった。中には、魔族の血を引く半魔半人すら拒否した宿もある。

「この街は、何かおかしくありませんか?」

「ああ、おかしいな。」

 用心深いスライムは、眼球液を動かして街を見渡した。

 商店の店先では店主が居眠りをしている。その前を幸せそうに寄り添って歩くカップル。道端では主婦然とした女が数人、寄り集まって声高に談笑していた。

 取り立てて珍しくも無い街の風景……だが。

「魔族が居ねぇ……」

 街中で会うのは人間ばかり。ここに来るまでに半魔半人は何人か見かけたが、街中に魔族の姿は無い。

「そう言われれば……」

 ヤヲはこれまで回った宿を思い出した。フロントで対応する店主も、遠めに見かける従業員も、もちろん客も、一人として魔族は居なかった。

「宿探しは諦めたほうが良いですね。」

「だな。さっさと野営の準備を始めよう。特に魔族は、この街から出たほうが良さそうだ。」

 ぐるりと振り向いたスライムの前に、突然、漆黒の闇色を纏った人影が立ちふさがる。

「何者だっ!」

 ざっと身を固くする目の前に、一人の吸血鬼ヴァンパイアが立っていた。

 ぴったりと撫で付けたロマンスグレーの髪に、裏赤の黒いマントというオーソドックスないでたち。だが、片手に持った大きな日傘がどこと無くコミカルなその男は、異常に赤い唇を大きく開き、鋭い牙を覗かせて、言い放つ。

「皆様、今夜のお宿はお決まりでしょうか?」

「はあ?」

 人のよさそうな笑顔を浮かべた吸血鬼が、クルリと日傘を回してみせる。そこには大きな文字が染め抜かれていた。

『旅のお宿 小鳩会館』


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