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部屋中を切り裂くかというほどの豪快な剣振音!
ガガキィイイイ!
金属音が派手に響き渡り、ミョネの体が壁に叩きつけられた。
「腕を……あげたじゃないかい、隊長。」
黄金の髪を僅かに乱しながら飛び込んできたヤヲは、すっと剣先をミョネに向けた。
「私だって、女性に酷いことをする趣味はありませんよ。しかし、ユリ様を傷つけようと言うのなら、話は別です。」
「くっそう! 皆して姫サン、姫サン……その姫サンがそんなにいいのかいっ!」
ミョネが両手を合わせ、二枚刃になった剣を力任せに振り下ろす。鈍い音が響き、受け止めた刀身が真っ二つに裂けた。
「いくら腕があったって、そんななまくら刀じゃ、ムリ!」
笑いながらミョネが跳ね上がる。その体を、ヤヲをかばうように飛び込んだ赤髪の女がド派手に蹴り飛ばした。再び壁に叩きつけられて、ミョネがぐふっと息を吐く。
「これを使いな、ハンサム君!」
「これは……」
差し出された剣は、何の変哲も無い無銘剣にも見える。だが、するりと鞘から抜いた瞬間、部屋中の誰もが息を呑んだ。
「ウチのダンナの最後の作にして最高傑作、『巨人斬』だ。」
ゆがみ一つなく、完璧な直線に打ち出された刀身には、月光すらも細かく砕く魔性の刃紋が匂う。大降りで重厚なその一振りは、切っ先まで光を散らせ、嵐にも似た豪快な剣振音を轟かせた。
「ぐうっ! ずるいぞ、そんないい刀。」
「ずるくなんか無いさ。たまたまウチの物置に、使わない剣がしまってあった。それだけのことさ。」
ヤヲがぐっと膝を沈める。不利を見て取ったミョネがじりじりと窓際に下がった。
「今日のところは退いてあげるよ。ボクだってまだ殺されてあげるつもりは無いからね。でも、この次は……」
窓の下に、動く松明の火。村中のあちこちから、明りを掲げた隊員たちが集まってくる。
「ぐうううううっ! 卑怯者めがあっ!」
ミョネは怒りに目をむき、部屋中をぐるりと見回した。
……人質を。取りあえず掴んで引き寄せられるだけの隙さえあれば、相手は誰でも……
「一緒に来てもらうよ、スライムっ!」
「えええっ、やっぱりぃいいい?」
がばっと動いたミョネの背中に、どすん!と蹴りの衝撃が走った。
「ウチのチビ助に、何をする気だい?」
しゅこーと妖しげなオーラを立ち上らせるサクテが……怖いっ!
「逃げ出すときはねえ、逃げることだけに集中しな。」
「くそっ、くそっ、ドちくしょっっ!」
ミョネが大きく体をねじり、窓を突き破って表へ飛び出した。階下で微かな金属音と怒号が上がるが、すぐにそれも静まる。
「おい、どうなった!」
ずるりと覗いたスライムに、隊員が大声で答えた。
「すまない、逃げられた。」
「人死にが出てねぇなら上出来だ。」
スライムはずり、と肩の力を抜く。
「それより、お前ら! なんで来たんだよ!」
「オレタチを出し抜こうなんてあまいんだよ、新入り!」
「交代で見張ってたんだ!」
「お前にだけ良いカッコさせてたまるかよ!」
サクテがスラスラの肩を叩いた。
「良い連中じゃないか。」
「あたりまえだろ。俺の『仲間』だぜ。」
外皮の下でぽこりと心地よい音を立てて、スライムが笑う。姉は少し眩しそうな笑顔で弟を見下ろした。




