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「平和ではないです!」
スライムによって中庭に連れ出されたヤヲは、無理やりに木刀を握らされた。
「いきなり剣術指南ってどういうことですか。しかも、いくら強いとはいえ、一介の一主婦が……」
既に木刀での素振りを始めていたサクテは、にやりと笑う。
「魔王直下軍、特別室所属。剣術指南役、サクテ=ウェ=ツンニーク……アタシの昔の肩書きさ。」
ギャラリーはユリとスライム、そして、珍しく難しい顔をした中年ノームだけ……
「まあ、今日の指南役は、姉貴じゃないがな。」
ぷるんと体揺らすスライムは、小さいおっさんをずりりと指した。
「師匠御自らのご指導だ。有難く思えよ。」
「師匠? 鍛冶屋サンじゃないんですか。」
「ああ、鍛冶屋だ。それも生粋のな。」
サクテの怒号が飛ぶ。
「無駄口叩いてんじゃないよ! さっさとかかってきな。」
「良く解りませんが、行けば良いんですね!」
ヤヲは大きく脚を踏み出し、一気に間合いを詰める。木刀がびゅっと風切った。
「馬鹿が! 正面から突っ込むんじゃないよ!」
かっつーんと攻撃の一閃が弾きあげられる。
「ぐっ、姉弟そろって、同じことを!」
両腕の力だけで刀道を大きく変え、斜め上から無理やりな攻撃をねじ込む。だが、サクテの木刀は既に音もなくそのわき腹に打ち込まれ、ヤヲの体は横に大きく弾かれた。
「ごちゃごちゃと考えすぎなんだよ! 頭を空っぽにして、ただ打ち込んできな!」
ヤヲが咆哮にも似た声をあげ、力任せに、ただひたすらに剣閃を打ち込む。
「それでいいんだよ。それがあんたの本来の剣筋だ。」
その全てを右へ左へと自在に流しながら、サクテがにやっと笑った。
傍で見ているスライムは、隣で腕を組む師匠を見下ろす。
「どう思う?」
「ふむ、強いな。全てを斬り捨て、ねじ伏せる『覇者の筋』だ。あ奴、まだまだ強くなるぞ。」
イェはヤヲに向かって小さな体には似つかわしくない、重厚な大声で言葉を与えた。
「剣を振るな! それは道具にあって道具にあらず。自分自身を振れ!」
攻撃の熱気にぼんやりとしたヤヲが呻く。
「良く解らないことを……」
「とりあえず、剣を持っていることを忘れろ。相手に当てるべきは己の拳! 剣は自ずと主に着いてくる。」
「ああ、それならなんとなく……」
ヤヲの振る木刀の音が、ひゅおっと心地よく当たりに響いた。かつんと弾き返すサクテの音が、心なしか余裕を失ったように感じる。
「相手の防御など気にするな! それすらも叩き伏せるが覇者!」
がつっ、ごつっと、ぶつかりあう木刀の音が重たく変化した。
今まで黙ってたユリが、驚きを小さくつぶやく。
「ヤヲ、強い。(お兄ちゃん、かっこいい(ノ `・∀・)ノ)」
妄想力を上乗せされたヤヲの木刀が、ついにサクテの防御をこじ開けた。
「しまった!」
ぐっと身を縮めるサクテの、まさに鼻先三寸に振り下ろされた木刀は、それ以上動くことはなかった。
「私の勝ち、で良いですね?」
肩を呼吸で揺らしながらも、ヤヲは自信に満ち溢れて立っている。その姿にスライムが賞賛の叫びをあげた。
「やったなヤヲ! マヂかっこいいぞ!」
おまけ
井戸端でもろ肌を脱いだヤヲは、白い手ぬぐいを冷たい水に浸して己の体を拭った。
「派手に……やられちゃいましたね。」
痣と傷で汚れた白い肌を見下ろして苦笑する。
「ヤヲ、後ろにもだ。」
ぷるんと這いよったスライムは、その手ぬぐいを取り上げて、背中の傷にそっと置いた。
「無理させたな。」
「このぐらい……おかげで、もっと強くなれるような気がしますよ。」
「ヤヲ……」
「スラスラ……」
その様子を傍らで見ていたユリが、ぽそりとつぶやく。
「びーえる?」
二人の男がぐあっと、拒絶に身悶えた。
「違うからっ!」
「ありえませんっ!」
「誰だ、ユリに変なことを教えた奴はっ!」




