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二人は、まるで一つの生き物のようにぴったりと寄り添って、舞い踊る虫をただ見ていた。
「寒くねぇか?」
夜露から守るようにずり、と柔らかくまとわりつくスライムを、ユリは完全な信頼を持ってキュッと掴む。
「スラスラ、適温。」
「そりゃ、よかった。」
小さな虫が気まぐれにスラスラの体におりて、震えるように瞬いた。
「虫、本当!」
「すごいだろ。こいつらは体の中でルシフェリンという物質と、酵素を混ぜ合わせることによって……」
「難しい。」
「……そうか。じゃあ、こういうのはどうだ。光っているのは恋の相手を探すためなんだ。暗闇の中の何百という光の中から、たった一つの運命の光を見つけ出す。そのための恋の炎で身を光らせているんだ。」
「スラスラ、ロマンティスト。」
「ううう、おかしいよな。こんなナリしてンのに。」
「良い。」
ユリがそっと手を伸べると、驚いたホタルが飛び上がる。
「恋、光、見つける。運命……」
「ああ、お前の光も、いつか誰かが……見つけちまうンだろうな……」
少し離れた植え込みから、一つの影がぽそり、ぼそりと囁きあう様子を、サクテはただ眺めていた。
「馬鹿だねぇ、姫サンなんて、身分違いもいいところじゃないか。あんただって、そう思うだろ?」
声をかけられた闇の一部がびくりと慄き、ヤヲが姿を現す。
「気配を完全に絶っていたつもりなのですが、さすがです。」
「ふふん、あたしに挑もうなんて千年早いよ、ヒヨっ子。……それよりあんた、アレはどうするつもりだい?」
「私が立場上、認めてやれないことはお分かりでしょう。」
「立場なんかの問題じゃない。『あんたは』どう思ってンだい?」
ヤヲの周りから、妖しげな気がしゅこーっと立ち上る。
「ええ、ウチの可愛い妹についた『害虫』のごとく、できればプチッと捻ってしまいたいですよ。そりゃもう再起不能になるまで、ぐりぐりっとすり潰してもやりたい気分です。」
「穏やかじゃないねぇ。」
「……それでも、無理やりにでも引き離す気になれないのは、どうしてなんでしょうね。」
「ンなこたぁ、知らないよ。」
踵を返すサクテを、ヤヲが呼び止めた。
「あなたは、どう思っているのですか。」
「ただのロリコンだったら、一刀の元に切り捨てて、野良犬のエサにくれてやろうと思ったンだけどね……」
サクテはユリの首もとのチョーカーを示すように、己の首をとんとんと叩く。
「あの姫サン、中身もロリなのかい?」
「いえ、人で言うと二十歳に手が届く頃。実際には120を僅かに越えた齢です。」
「ウチのチビ助とさほど変わンないじゃないか。反対する理由はないね。」
サクテの周りにも、しっゅこー、と揺らめく気が立ち上った。
「『愚弟の恋路の邪魔するヤツは、サクテに斬られて死んじまえ』って言葉、知ってるかい?」
「そちらこそ『無駄枝は小さいうちに摘め』って、知っていますか?」
ぶつかり合い、牽制しあうその気迫に、ホタルが微かに揺らめいた。




