7
酒宴の賑わいを僅かに避けて、赤い花咲くチネスの根元に一人うずくまったユリは、抱えた大鉢の中身を黙々と食していた。
「ンなところに居たのかよ。」
ずるりと植え込みをすり抜けたスライムが、安堵の溜息をつく。
「俺にも少しくれよ。」
無言で差し出された大鉢に、スライムはみっともなくずる、と顔を突っ込んだ。
「こんな姿、他人に見せれっかよ……」
それでも今は信頼する主しか居ないことに安堵して、スライムはべろりと一気に、鉢の中身を飲み下す。腹にぷかりと浮かぶそれを舌液でゆっくりと味わいながら、掛け値なしの賞賛を唸った。
「なんだこれ、むちゃくちゃ美味い! 少し甘めなのに、しつこい感じは無く、塩気とのバランスも絶妙だ! フセチィージの特色である素朴さも良く出ていて……ぐわああああ、飯が欲しくなる!」
「大げさ。」
「いや、マジで美味いって。ユリ、この辺ではなあ、『フセチィージの上手い女は良いお嫁さんになれる』って言うらしいぞ。」
「お嫁さん、婚姻……」
ユリがふっと微かな笑みを漏らした。
「やっと笑ったな。」
「ユリ、無表情。」
「はぁ? 馬鹿言うなよ。8割引だから解りにくいってだけだろ。こんなに感情丸出しなのに、無表情とかありえねぇよ。」
スライムはずるりと銀髪に手を伸ばし、柔らかいしぐさで撫でる。
「悲しい顔をしていた理由は? 俺にも言えねぇか?」
柔らかい体に、ぽふんとユリが顔を埋めた。その声はいつにもまして抑揚乏しく、小さい。
「母、父、恋した。奇跡、言った。」
「ああ、『結婚』すら道具になる王族では、好きな相手と結ばれるってぇのは、確かに奇跡だろうな。」
「魔族、人、寿命違う。一緒、暮らせない。」
「そうか、庶民ならともかく、王族だからな。そんな効率の悪い『結婚』は認められないわけだ。……だから『婚姻外』なのか。」
「父、母、大事。母、殺した、ユリ……嫌う?」
スライムは椅子のように体をくぼませ、ぱふっとユリを抱き寄せた。
「父ちゃんってのは、娘に激甘な生き物らしいぞ。一般的に。」
「陸路、大変。ユリ、来るな?」
「ンなこたぁねえよ。きっと歓迎してくれるさ。」
言いながらもスライムは、自分に対しても『ウソ』をついていることに気付いていた。同じ不安は、自分の中にもある。だが、例えそれを隠してでも、彼は小さな少女にただ笑って欲しかった。
「……歓迎?」
それでも一向に晴れないユリの様子に、ちり、と外皮がこげる心地を感じたスライムは、その小さな体を包み込むように抱きしめる。
「もし、魔王がお前を嫌っていたら……いらないって言いやがったら、俺が……お前をさらってやる。」
「……婚姻?」
「馬っ鹿、俺に姫さんを娶る甲斐性なんかあるかよ。それでも、仕事を探して……何とか食わせてはやるさ。俺はお前の『寝台』だからな。」
「王族、なくなる。寝台、ない。」
「俺は王族の姫君の寝台になった覚えはねぇ。ユリ、俺は『お前の』寝台だ。」
ユリは優しい弾力に全ての体重を預け、頬を摺り寄せる。
「スラスラ……一緒。」
「ああ、ずっと……」
スライムは、自分の気持ちをしっかりと見据えようとした。
(別に、エロい気分にゃぁなんねえな。ただ……)
少しでも近づきたい。触れ合っている今よりももっと近くへ、深くへ、ただ優しさだけでこのオンナを満たしてやりたい。全ての悲しみから隠して、守りたい……
(恋なんかじゃねぇよ、これは。)
湧き上がる庇護欲のままに、ただ抱きしめたいという思いのままに……より深く窪みこもうとする弾力を、ユリの声がさえぎった。
「スラスラ、ウィプス!」
「あ? お前のか?」
「違う、そこ。」
すっかり暗くなった夜の空気に誘われて、足元の草むらから二つ三つ、小さな黄緑色の光が舞い上がる。
「ウィプス。」
「ウィプスじゃねぇよ、蛍だ。ちっこい虫が光ってるんだ。」
屋敷の裏手に引き込んだ用水から上がってきたのだろう。一つ、また一つと光が寄ってくる。
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