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白塗りの豪奢な馬車と、その隣に佇む銀髪の少女をみたサクテは、侮蔑の眼差しを弟に向けた。
「まさか、あんた、ロリコ……」
「俺はロリじゃねぇえっ! ユリは俺の主だ。」
ずるりと主に寄り添うスライムに、からからと豪快な笑いが降る。
「冗談だよ! あんた、『大きいことは良い事だ』が座右の銘じゃないか! そんなペタンコ……」
「大きい、いい? ペタンコ……」
平らな胸に手を置くユリに、スラスラがことさらに慌てた声を出した。
「ユリ! 女の価値はそこじゃねぇぞ! もっとこう、全体のバランス的にだな……」
「バランス、幼女。」
「ぐああああ! 俺はっ! ロリコンじゃねぇってばああああ!」
悶える弟スライムを尻目に、サクテはユリに気安い言葉をかける。
「こりゃあ、可愛らしい姫サンだねえ。家の愚弟は迷惑かけてないかい?」
「スラスラ、優しい。楽しい。感謝。」
二つに結い上げた銀髪を、ぺこりと揺らすサマに、姉も身悶えた。
「ぐくっ……なに、この可愛さあああああ!」
半ば呆れ顔のヤヲが、堪らず声をかける。
「あの……馬車の方は……」
「ああ、心配しなさんな。このサイズなら、家の工房で十分作れるさ。請求は、ノーニウィヨの国庫に出せばいいのかい?」
「ええ。費用はいくらかかっても構いません。最高級の材料で……」
「お前は、馬鹿か。」
スライムがヤヲの言葉尻を食った。
「この大きさのものに最高級のヌニンを使ったりしたら、車輪一つで城が建つぞ。材質は問わない。長旅に耐える堅牢性と、地面に対するあたりのよさを最重視してくれ。あと、費用はできるだけおさえてぇな。」
「費用は国庫から出るんですよ。何の心配も……」
「だから馬鹿だって言うんだよ。国庫の金ってのは、国民の血税だ。大事な国民の金を無駄遣いする訳にゃあいかねぇだろうが。」
「それも『帝王学』ってやつですか。」
「主を王として、正しく導くのも『寝台』の務めだからな。」
ユリをグイと引き寄せ、ずりと胸を張るその姿に、サクテが目を細める。
「ちゃんと『寝台』してるじゃないか。」
「俺は、仕事はきっちりとやる性質なんでな。」
「この前までニートだったくせにねぇ。」
ユリがきょとんとスライムを見上げた。
「ニート、なに?」
「ああああ、あれだ『自宅を守る人』と書くんだ。」
「『無職』とも言うね。」
「姉貴っ! 余計なことを言うなっ!」
「おや、主に正しい知識を授けるのも、『寝台』の仕事なんじゃないのかい?」
「ううっ、くううっ……ユリ、ニートというのはなぁ……」
しどろもどろに説明し始める弟を笑い飛ばして、サクテは遠巻きにみている隊員たちに声をかける。
「さあ、力のあるものは馬車を運びな! 非力なヤツは、家で料理を手伝ってもらうよ! 家の愚弟が世話になっているお礼に、今夜は酒宴だ!」
伸びやかに通るその声に、隊員たちが大歓声で応えた。




