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大きな屋敷に入ると、大人の手のひらほどしかない小さな生き物が四つ、ぷるぷると柔らかいスライムに飛びかかった。
「おじちゃん!」
「ばかっ! 危ないから飛びつくなって言っているだろ!」
ボヨンとくぼんで受け止めたスラスラの上で、地精霊の子供が四人、楽しげに跳ねている。
おくれて這い寄る、さらに小さな子供は……
「またガキが増えてんじゃねぇか。」
スライムが自ら腕を伸ばして、兄弟達の真ん中に下ろしてやった。
その姿を見ていたヤヲが、ぼそりとつぶやく。
「ユリ様の扱いが上手い理由が……解った気がします。」
さらに革の前掛けをきっちりと巻いたままの中年ノームが、家の奥から助走をつけて駆け寄ってきた。
「チビ助、久しぶり!」
空中に飛び上がったひげ面の男に、スライムが慌てて腕を出す。
「馬鹿親父が! ガキを潰す気かよ!」
スラスラが受け止めるより早く、横から一閃した母親の手刀が、小さいおっさんを壁際に突き飛ばした。
「あああああ!」
その凄惨な光景に驚きの声をあげたのは、ヤヲただ一人だ。
「おっさん、はしゃぐような年じゃないだろうよ。」
「何を言う! 可愛い愛弟子がわざわざ遊びに来てくれたんだ! テンションが上がらないわけが無いだろう!」
壁に叩きつけられて転がったノームが、がばっと起き上がる。
「とりあえず飯だ! いや、酒か?」
「ンなことより、頼みがある。」
スラスラは、気おされて立ち尽くしているヤヲを指した。
「だれ?」
「俺の今の勤め先の上司でノーニウィヨ王国歩兵少将、王室側護衛隊長、ヤヲ=ケネセッスだ。」
「勤め先! お前、ニートはやめたのか! めでたいな。酒だ、酒!」
「頼むから、ヤヲにもう少し興味を持ってやってくれよ。」
「お前、オレが軍属嫌いなのは知っているんだろう。ふん、ちゃらちゃらとヌニンの甲冑なんぞつけやがって。オレの名を知って、剣でも求めに来たか?」
「俺も今や軍属だぜ。それにな、作って欲しいのは剣じゃなくて、車輪だ。」
「ほう?」
スラスラは子供達を床に下ろし、ヤヲの容姿をつくる。そして跪き、深々と頭を垂れた。
「王室側護衛隊、歩兵見習い、ユリ=レオ=ソスターセ附き『寝台』。主より名を賜り、今は『スラスラ』を名乗っております。本日は主よりの正式な依頼として、お師の下に参りました……って感じで、どうだ?」
「『寝台』! お前が『寝台』か……おまけに、あれほど嫌がっていたトレースまでしているとは……」
女房がかがみこみ、小さなダンナの耳に何をか吹き込んだ。
「なんと! なるほど、それは……男として頑張っちゃうよなぁ。」
「何にやにやしてんだよ、気っ持ち悪ぃな。」
小さいおっさんが、ヤヲの前に恭しく膝を折る。
「イェ=ウィ=イチと、その女房サクテ、並びに五匹のガキども、その仕事、謹んでお受けします。」
「とりあえず、馬車の状況を見てこようかね! あんたが惚れたお嬢さんってのも見てみたいし!」
「惚れてねぇしっ!」
「えー、いいなぁ。オレも行きたいなぁ……」
「あんたは馬車を受け入れる準備をしろよ! ったく、この夫婦はよぉ……」
ちゃきちゃきと繰り広げられる下町の掛け合いについていけないヤヲは、ただ口を開けて、ぽかんと突っ立っていた。




