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ボクはロリなスライムじゃないよ。イケメンになりたいだけなんだ  作者: アザとー
『姉貴』と書いて向かうところ敵なし
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 ミジホの村が鉄鋼で栄えたのには、もちろん理由がある。

 一つは、近くの山から良質の鉄鉱石が取れること。その質の良さは他に類を見ないほどで、兵装として人気の高いヌニン鋼は、ここで鍛えられたブランドである。

 もう一つは、熱源として利用できる休火山の麓にあるという、特殊な立地だ。ちょっとした制御の呪文さえ扱えれば、工房に引き込んだ火山脈を扱うことは難しいことではない。

 ここで生み出された数多の鉄製品は国中で売られる。村は小さくとも、火山の熱気と人々の活気で満ち溢れていた。

 商家と工房の立ち並ぶ目抜き通りを歩く、全く同じ顔をした二人の男……もちろん、スラスラとヤヲだが、二人は、この村で一番奥まったところにある、飛び切り大きな屋敷を目指しているところであった。

「ヤヲ、聞いておきたいことがある。」

 黒い甲冑を着た男の言葉に、白い甲冑の男が応えた。

「ユリ様のことですね。それで、わざわざ私を連れ出したんですか。」

「まあ、な。本人には聞いちゃいけないような気がしてな。」

 スライムが歩速を落とした。

「この移動、陸路を指定したのは魔王自身だそうだな。」

「ええ。ユリ様を受け入れるための条件として、わざわざ書状にしたためられていました。」

 ヤヲも、少しだけ歩幅を小さくする。

「……魔王ってのは、ユリをちゃんと歓迎してくれるんだろうな?」

「何を疑っているのですか?」

「魔王サマの愛情をだ。陸の移動は時間も、手間もかかる。敵に付け入られる隙も当然多くなる。そんな試練をわざわざ愛娘に与えるのか?」

「魔王様のご真意は、私にも解りかねます。ただ、ユリ様への愛情は、間違いなくお持ちですよ。毎年お誕生日には花を届け、ことあるごとに贈り物を……」

「愛情は、ものじゃ測れねぇよ。」

「じゃあ、今回の道行きは? ユリ様が常々お命を狙われていることに気がついた魔王様は、ご自分がユリ様を守るつもりで……」

「だから! それなら飛行魔物ひこうきでも使えば、安全だし早いじゃねえか。」

 ずるりとしたスライムの姿とは違い、ヤヲの姿を借りた彼は実に表情豊かだ。さしずめ、今は『怒り』。顔を高潮させ、眉尻を上げ、口からは泡を飛ばさんばかりにがなりたてる。

「ユリは何故、あんな悲しそうな顔をした? あれは父親に愛されている娘の顔じゃあ無かったぞ!」

「随分と怒っているんですね。」

「当たり前だ! 俺はユリの『寝台』だからな。主に仇為すものは例え魔王でも……えふっ!」

 スラスラの背後に、どーんと衝撃が走る。

「この馬鹿スライムが! 背後ががら空きだよ!」

「ううう、だから来たくなかったんだよ……」

「そんな、イケメンのフリなんかしたって、あたしはお見通しさ!」

 人間の女性……なのは、もちろん、トレースした姿だからだろう。赤髪を一つにまとめたその女丈夫は、木刀を片手にしてにやりと笑っていた。

「あなたがスラスラの……」

「ヤヲ! 挨拶は後だ。構えろ!」

「えええ! 木刀なんか持っていませんよ。」

「遠慮すンな! 相手は化け物だ。」

 黒い男はすらりと腰の真剣を抜いた。

「もうちょっとハンデをつけて欲しいぐれぇだ。」

 女丈夫はすうっと肩を落とし、木刀を軽く握る。どこにも余計な力は入らず、流れる水のように静かなその立ち姿は、間違いなく『達人』のそれだった。


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