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空は既に薄明け始めている。
町外れの下水の出口に集まっていた護衛団の兵士達は、黒い甲冑を引きずるようにして現れた『大人の姿』の主を助け起こし、ほっと安堵の溜息を漏らした。
「なんじゃ、わしには誰も手を貸してくれんのか。」
次いで這い出してきた紫甲冑のデュラハンに、全員が最敬礼を捧げる。
「畏まる必要はない。ただ、その辺のかわゆいおねーちゃんに手を貸してもらえれば、この年よりは満足なんじゃが?」
その虚しい軽口に、隊員の一人が痺れを切らした。
「ヤヲ隊長は? 一緒じゃないんですか!」
脇に抱えた首が、渋い顔で舌打ちする。
「ああ、あいつらは……」
突然、ユリがガバッと膝を付き、隊員たちの前に額をつけた。
「お願い、一つ。」
「ユリ様、なにを!」
主の土下座に一同は騒然に包まれ、駆け寄った女兵士がその両から手を伸べてユリを抱え起こす。
「魔法、ダメ。助ける、出来ない。ヤヲ、スラスラ……」
表情の無いユリの頬を、涙が伝い落ちた。
「……スラスラ……」
足りない言葉よりも、たった一筋の涙がその心情を雄弁に語る。
「あのスライムを……助けたいのですね。」
頷くユリに、不満の声が上がった。
「無理だ! あのスライムは信用できない!」
「ユリ様だって、ひどい目に遭わされたんでしょう!」
ユリが喉も裂けんばかりの大声を上げる。
「しない!」
初めて聞く無口な彼女の怒号に、一同が凍りついた。
「エロい、ちがう。トレース。スラスラ、身代わり!」
涙に濡れた瞳が一人一人の顔を見回す。
「お願い、一つだけ。」
取り縋るような涙を見上げて、クアネの首が大きな溜息をついた。
「お嬢ちゃん、涙はずるいぞぉ。」
がちゃり、と、紫の甲冑が動く。
「隊長を助けたい者はついて来い。小童はそのついでじゃ。」
がちゃり、がちゃりと装備のこすれ動く音があちこちで起こった。




