+(プラス)
ごめんなさい、ごめんなさい、開けたり閉めたりしてごめんなさい!
だって、カムチの気持ちが・・・って言われて書きたくなっちゃったんだもん。
本当にごめんなさい!
その夜、ヤヲは幼い娘を喜ばせようと名店ナウィリのナーウィリス(焼いた皮にあんこを挟んだ菓子)を買って帰ったのだが……カムチは部屋から出て来ようとはしなかった。
「どうしたもんですかねぇ」
お茶を入れる妻に深いため息を見せた彼は、困りきっていた。
王であるスライムと彼の思惑は、いつか来るかもしれない戦いの日に向けて二人を引き合わせることであった。
「あれでは良好な関係は望めませんねぇ」
茶碗をことりと置きながら、ミョネが微笑んだ。
「ボクには相性良さそうに見えたけどねぇ?」
小さな茶碗とナーウィリスを盆に取り分ける妻に、ヤヲは怪訝を向ける。
「どうする気ですか」
「あの子の好物だよ。部屋に持って行ってやらなくちゃ」
「じゃあ、私も……」
「あんたはダメ。話がややこしくなる」
しょもんと顎を下げる夫の髪に、ミョネは小さなキスを降らせた。
「小さくたって女の子だからね、女の子の悩みがあるんだよ」
見た目は変わらず若くとも、年上である彼女の言葉は重みと優しさを増している。ヤヲは大人しく頷くしかなかった。
部屋へ入ったミョネは、床に落ちたよそ行きを見てため息をついた。壁際にだらしなく広がったそれは、腹立ち紛れに投げつけられたものだろう。
「こういうことするなら、もう買ってあげないよ」
頭まですっぽりとベッドにもぐりこんだカムチに声をかけるが、返事はない。
ミョネは小さな机に盆をおろし、拾い上げた洋服のホコリを払った。
その気配に、布団が揺れる。
「……お母さん」
「なんだい?」
「……私は、浮かれていたのでしょうか」
いつも格好に頓着しないカムチが散々に試着を繰り返し、ようやく選び出したのがこの一着だった。
「ちゃらちゃらと格好のことなど気にかけて、その浅はかな態度が逆鱗に触れてしまったのでしょうか……」
「ああ、可愛いって言ってもらえなかったからイジケているんだね」
「そんな不埒なことっ!」
がばっと布団を跳ね除けたカムチの瞼は、泣きはらされている。ミョネは少し冷たい掌をそこに押し当てて、軽く揉んでやった。
「可愛いって言って欲しかったんだろ?」
「……はい」
「どうして?」
「……わかりません」
「そっか」
腕の代わりに生えた月蝕刀ごと娘を抱きしめれば、小さな肩がひくっと泣く。
「私は、こんな体ですし、気持ち悪いとか……思われたかも……」
「あのねえ、ボクの可愛い娘にそんな失礼なこと言うやつがいたら、切り刻んでやるよ!」
「しゃべり方も、生意気だとか……思われて……いたら……」
「……」
「……どうすれば、『友人』と認めていただけるのでしょう」
「あのさあ、確かに『友人』になるように教えたけど、いやならやめたっていいんだよ?」
「そんなこと!」
「その辺も、ちゃんと取り決めてあってね、子供たちがどういう関係になろうと、見守るってことになっているんだよ。だから、あんな狭量なガキ、イヤだって言うなら……」
「イェノスさまは狭量じゃありません!」
「へええ。今日初めて会った相手なのに?」
「人となりは以前からうかがっておりましたし、それに……実際にお会いしてみて……」
その執着の正体を言い表す言葉を、幼いカムチは持ち合わせていない。理由も言わないかんしゃくは、明瞭な彼女には珍しいことだった。
「ともかくっ! あの方の『友人』は私ですっ!」
ミョネがぐしゃぐしゃと娘の短髪をかき回す。
「パパは認めないだろうね」
「はい? 『友人』になるように私をお育てになったのは、父上ですよ?」
「ああ、そうじゃなくて……まだいいか」
この幼い心がどう育つのか、まだ誰にも解りはしない。おそらく当人すら気づいていない、小さな、小さな芽が友情という信頼に育つのか、それとも……
「ま、ボクはいつだってあんたの味方だからね」
「?」
きゅっと抱きしめられながら、カムチは自分の心にわだかまった思いを理解しかねていた。
これで本当にロリすらはしばらくお休み! です。




