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ボクはロリなスライムじゃないよ。イケメンになりたいだけなんだ  作者: アザとー
おまけ 『ミョネ』と書いてヤヲの花嫁
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 控え室になっている居室のドアを開けて、スライムはほほえましい光景に眼液を細めた。

 健康的な褐色の花嫁のために選ばれたドレスは一見すると純白にも見えるが、光線の加減によって浅い水底のような青が微かに混ざる上等なものだ。

 それは快活でセクシーなミョネには良く似合って、今日の主役に相応しい華やかさで花嫁を輝かせていた。

 その美しい花嫁は揃いの生地で仕立てたミニドレスも愛くるしいユリ【子供型】を相手に、ブーケトスの作戦を与えている。

「いいかい、ブーケって言うのは後ろ向きに投げるんだ。ボクは姫サンがどこにいるか目では確認できない」

「理解」

「だから、大きな声でボクを呼ぶんだ。それを目安に投げるからね」

「了解」

 手を取り合うような距離感は仲むつまじく、まるで本当の姉妹のようだ。

「大人の姿なら簡単だろうよ」

 スライムの言葉に、ユリが小さく頬を膨らませた。

「ベール、持つ」

 それはユリのささやかなわがままなのだが……かわいい『妹』からの祝福を、ヤヲとミョネは何よりも喜んだ。

「俺としちゃあ、お前のドレス姿も見たかったんだけどよ。ま、楽しみは本番まで取っておくか」

 スライムはぷよりとユリの小鼻を摘む。

「俺はちょっとミョネに話があるんだ。先にヤヲのところへ行っていてくれるか?」

 他の女が相手なら拒んだだろう。しかし、『兄』の花嫁となる彼女のことをユリは深く信頼している。

 それに、彼女が『過去』に傷を持っていることも聞き及んでいる……

 小さな背中が素直に出て行くのを見送ったスライムは、こぽこぽと声帯液を幾度か揺らした。

「ミョネ……」

 普段のスライムからは考えられないほどに低い、中年めいたその声にミョネが唇を震わせる。

「父さ……ん?」

「ふふん、こんなのは遺されていた資料を漁ってお前の親父の肖像画を探し出し、そこから俺が推理しただけの声だ。親父そっくりに聞こえるか?」

 頷くミョネの頬を一筋の涙が伝った。

「親父に言いたいことがあるんだろ?」

「あるよっ! あんた、勝手にボクをこんな体にして、勝手に死んで! ボクを……一人ぼっちにして……」

「今は一人ぼっちじゃないだろう?」

「ああ、一人じゃない。うるさいぐらいにぎやかな連中が居てくれるからね」

「花婿は、お前を幸せにしてくれそうか?」

「当たり前だろ、さいっこうに幸せにしてくれるよ!」

 こぽこぽこぽと軽く声帯液を戻したスライムは、静かな笑いを外皮に刻む。

「まあ、せいぜい幸せになれよ。親父さんはそのためにお前を生かしたんだ」

「本当にそう思うかい?」

「思うね。子供の幸せを願わない親なんていねぇよ」

 得意げに身を引き伸ばすその姿は、父と言うよりもあの幼子に重なる。

「ホコカ=ホコニィン=ミ=マンナ=ケ=フツ=キイト=フヒン=オヤクク=ハシク(ねえ、お姉ちゃんは本当に幸せになっても良いのかい)?」

 スライムはその言葉を吸い込んでしまったかのようにしばらく揺れていた。

「あのなあ、ミョネ……」

 ややあって口液を開いた彼は、やはり、静かに揺れている。

「俺たちは生き残っちまったんだ。せめて幸せになってやらねぇと、死んだ奴らは納得しないぜ?」

「あんた、古代語!」

「ああ、特訓中なんだよ。ユリは時々古代語でしゃべる癖があるからな。その……のときとか、困るかな~とか……思ってよ」

「はあ? ノーミソ茹だってんのかい」

「ふん、何とでも言え。俺は幸せになるつもりだぜ。お前はどうするんだ?」

「くっそ生意気~っ! ボクだって……いや、ボクのほうが幸せになってやるからね! 覚悟しなよ」

「ふん、それでいいんだよ」

 スライムはミョネの手をとった。嫁ぐ娘に触れる父のごとく優しく、切なく……

「さ、行こうぜ」

 花婿は美しい己の花嫁を待っているに違いない。きっと一点の曇りもない『黄金きんの陽光』そのものの笑顔で。

 自分を迎えてくれる幸せに恥じないように、美しいその花嫁はくいっと胸を張った。


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