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「おい、お前らは逃げろ。あいつはもはや誰を助けるつもりも無い。自分ごと世界を焼き尽くすつもりだぞ」

 その声で真っ先に逃げ出したのは、ケウィが連れてきた三人の手練達だった。

 スライムの仲間達は誰一人動こうとはしない。

「さっさと逃げろって!」

 声を苛立たせるスライムに、ヤヲがふふんと鼻を鳴らす。

「世界が焼き尽くされるなら、どこに居ても同じことじゃないですか」

「ちっ! 勝手にしろよ」

 魔力の通じ始めたケウィの詠唱陣が眩いほどの銀色に光り始めた。

 対するユリも口中でぽつぽつと古代語を呟きながら魔力を爪先に集める。

「姫さん、これも使いな」

 ミョネが主の背中に掌を当てた。ヤヲはそんなミョネを抱きしめる。

「魔鉱石の代わりか! だが……」

「文句は言わせませんよ? 私だってミョネとの未来が欲しいんですから。ああ、ユリ様と合同で結婚式とかもいいですよね。どちらも最高に美しい花嫁でしょうね……」

「あ~ん~た~は~っ! 状況を見てデレなっ!」

 流れ込む魔力がユリの爪先に静かな月色の光を灯した。

「ユリたん、これも使うのだ」

「そのかわり、お兄ちゃまって呼んでくれよ」

「お兄ちゃま」

「ぅ萌えええええええええええ!」

 兄弟龍が妹の両肩にそっと手を置く。より強い光がユリを包んだ。

「こりゃあ、わしも参加せんわけにはいかんじゃないか」

 老竜が娘の銀髪に優しく触れる。

 ヒセはユリの尻尾の先を掴んだ。

「まあ、しゃあないな。ウチの子の将来もかかっとるし、な」

 ユリを包む魔力の色は澄み切って、まるで本物の月光のように淡い。

「あいつが手に入れた増幅の福音がどれほどのものか解らねぇ以上、出し惜しみなんかしている場合じゃねぇ。始めっからとばしていけ」

 不安が無いといえば嘘になる……いくらユリの魔力が底なしでも相手は世界を丸ごと焼き尽くそうという火力、加えて先ほど解読したばかりの半魂の呪はどれほどのものなのかすら解っていない。そもそもムキクの解読が正しいかどうかさえ……

「なあに、心配はいらねぇよ。俺は絶対にお前から離れねぇ……いや、離さねぇ!」

 大きく広げられた腕液の中に鼻先を押し付けて、ユリはもくもくと呪を紡ぎ続けた。

 目を閉じれば濁流のように流れ込む魔力。その中にたった一つだけ、魔力すら持たない彼が寄り添う温かいだけの体温……

(怖い、無い)

 ユリは母を死なせてしまったあの夜から自分の中にある膨大な魔力を憎んで生きてきた。いっそ普通の子であったなら母を喪うことも無かっただろうと思えば、自分自身さえもが恐ろしかった。だからこそ、魔力と共に姿も幼く封じることを望んだのだ。

 それでも彼は、そんなユリの全てを受け入れてくれた。旅寝の中で夜が怖くないことを教えてくれた。そして、ただ憎いだけだったこの魔力が世界を守る力となるように、ここまで導いてくれたのも……

(母……ユリ、産んだ、感謝)

 空耳の中で優しく歌われる子守唄。その声に心からの感謝を捧げてユリは目を開く。

……呪は成った。

 ユリの視界に映るケウィの姿がいっそう眩い銀に輝く。

 部屋中の空気が、ぼっと炎質な音を立てながら揺らいだ。


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