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 スライムと並んで廊下を歩きながら、魔王は年寄った顔をしわくちゃにして笑い転げた。

「タンマじゃ。呼吸が続かん」

 傍らの柱に寄りかかって、ひーひーと笑いで乱れた息を整える。

「しかし、わしに全てを正直に話さんでも、ユリを抱いたことにしておいたほうが都合良かったんじゃあないのか?」

 それに答えるスライムの声は沈んで、真剣な響きを含んでいた。

「そうだな、ユリは王になる女だ。手ぇ出しちまったら『責任』に縛られたフリをして、あいつを手に入れることが出来るだろう」

「ふむ、縛られるのがいやなのか?」

「冗談! あいつがそばにいてくれるなら、責任だろうが嘘だろうが喜んで受け入れるさ。」

「ならば、何を惑う」

「最近、ちょっと浮かれて忘れていた、俺の過去のせいだ。俺はまだ罪を償ってはいない」

「あの泣きバンシーの母子か?」

「くえねぇじじいだな。解っていて呼んだんだろう?」

「まさか! あれほどの古文書を解読できる人物が他にいなかっただけじゃ。それに、ここを乗り越えんと、お前は先に進めんのじゃあないか?」

「やっぱり、確信犯じゃねえか」

「さあて……ね?」

 歩き出した老王は兵錬場へ向かういつもの道では無く、薄暗い地下牢へと続く小暗い階段に脚を向けた。

「あ? じじい、どこに行く気だよ」

「実は、農兵が森でうろついている不審人物を捕らえてな。そいつは……銀の髪じゃそうだ」

「婚姻外の子っ?」

「まだそうと決まったわけではないがな? もしそうだとしたら……」

「戦いは近いってことか」

 スライムはぶるぶるぶるっと身を揺すった。それから、しゃんと胸液を張る。

「そいつを調べるのは俺がやる。多少汚ねぇ手を使ってでも身元を吐かせてやらぁ。じいさんは兵達に指示を! いつでも出兵できるように装備を整えさせて、国境の警備を強化させろ!」

「お前は……本当に爺さんに似ておる。そうやって泥をかぶる仕事ばかり選ぶんじゃな」

「んああ?」

「ふん、聞こえなんだら別にええわい」

 踵を返した魔王は、スライムにもはっきりと聞こえるように声を張った。

「なあ、お前は自分が幸せになりたいとは思わんのか?」

「そりゃあ、なれるもんならなってみたいさ。だが、俺には幸せになる資格がねぇ」

「そんなもん、誰も持っとりゃあせんぞ」

 後ろ向きのままの肩が、寂しそうにすくめられる。だが、スライムは一言も答えようとはしなかった。


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