13
翌朝、いつもより少しばかり起床の遅いスライムたちを起こそうと部屋に入ったヤヲは、その有様を見て声を荒げた。
「スラスラっ! なんて破廉恥なことをっ!」
「んあ?」
寝ぼけ眼で起き上がったスライムも自分の置かれた状況のマズさに凍りつく。腹の上には主ではなく、稚い子バンシー。シーツは引き乱され、血色の染みがいくつか散っている。
「ちがっ! 断じて違うぞっ!」
折の悪いことに、ヤヲの声を聞きつけた者達が駆けつけてくる。この状況を弁明でひっくり返すのは易くはないだろう。
「ううう、これは……だな……」
「これは?」
目を覚ました子バンシーは訳も解らず騒乱の中で萎縮してしまっている。そのおどおどとした態度がますます他人の妄想を掻き立てるようだ。誰もがクズ蟲を見下ろすような冷たい視線をスライムに向けた。
ひそひそと囁きあう雑言を遮ったのは、ソファから身を起こしたユリの一言。
「相手、ユリ」
いつの間に脱いだのだろう。寝巻きを脱ぎ捨てて薄衣だけでなまめかしく伸びをする姿は、百の言い訳よりも確かな説得力がある。
ようよう一番後ろに駆けつけた、赤銅と青銅のドラゴンが悲鳴が響き渡った。
「きさまああああああああああああ!」
「いたいけなマイエンジェルにいいいいいいいいいい!」
空気を揺るがすほどの咆哮さえ気に留めず、ユリはスライムに身を寄せる。
「スラスラ、しつこい。二回目、無理」
シナを作るフリをして、子バンシーに目配せをする。
「……あ? ああ、それでウチが呼ばれたんや。こいつが姫サンに無茶しないためのお目付け役っちゅうことでな」
「で? お目付け役を抱いて寝ていた言い訳は?」
「昔話。スラスラ、ロリータ、不可」
二匹のドラゴンは火を噴き出さんばかりの勢いで叫んだ。
「うそだあああああああ! ユリたんだってロリじゃねえかあああああああああ!」
「知っているんですぞっ! 鍵は我々が持っているのだからっ! 幼女になんてことしやがるんですかああああああああああ!」
殊更に腰を撓ませたユリがスライムに抱きついた。あくまでも、なまめかしい風に。
「ユリ、特別。スラスラ、恋人」
今や二匹のドラゴンの銅色の瞳は、スライムを射殺さんばかりに燃えている。
「やっぱりかっ! 一目見たときから気にくわなかったんだ!」
「ぅ表へでろおおおおおおい! 勝負じゃあああああああ!」
その大声にユリが耳を塞ぐ。
「うるさい(お兄ちゃん達ってばうるさい。そんなんだとキライになっちゃうんだからねっ?)」
高濃度の妄想力に補完されたその言葉は、ドラゴンたちの心をズタぼろに引き裂いた。
「うううううう」
「俺たちの……負けだ!」
そしてもう一人、妄想力に心裂かれた男が……
「もう、お兄ちゃんなどお呼びではないのですね……」
「ヤヲっ? なんでお前までヘコんでんだよっ!」
がっくりと膝をついた金髪の男は、顔すら上げようとはしなかった。




