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いかめしい城門をくぐると、最初に出迎えてくれたのは二匹の若いドラゴンだった。
赤銅色の鱗を持つ炎竜と、青銅色の鱗を持つ水竜、二匹が腕組みをして城戸の前に足を踏ん張っている。
スライムは馬上でユリを抱えたままの魔王に小声で尋ねた。
「おい、アレって……」
「ああ、わしの息子達だ」
「そんなことは見りゃあ解るよ。そうじゃなくて、自分達の王位を脅かすユリが気に食わない、とかじゃねぇだろうな?」
「いやいや、むしろ……」
二匹のドラゴンが走り出した。走りながらしゅおっと魔力を振りまき、美青年へと姿を変える。
一人は赤銅色の短髪が逞しい風貌を引き立てる美青年。もう一人は青銅色の長髪が理知的な細面に映える美青年。ただし、二人とも……
「お前らっ! 服を着ろおおおおおおおおお!」
スライムの叫びもむなしく、二人の青年は魔王の腕から奪うようにしてユリを抱きしめた。
「いもうとおおおおおおおお!」
「萌え! 超萌えっ! ツイテとか王道すぐるううううううううううう!」
「だから、服を着ろってえええええええええ!」
魔王城の堅固な城戸前は絶叫の狂宴に彩られる。
青年達の腕の中でもみくちゃにされながら、ユリはきゅるんと首をかしげた。
「お兄ちゃん?」
赤銅の男が少しよろめく。
「なあキカジ、聞いた? 『キシジお兄ちゃん』だってよ……」
「勝手に脳内補完しない! でも、そうですね、ワタクシのことは『小兄ちゃん』と呼びたまえっ!」
青銅の男の言葉に、ヤヲが隊員を押しのけて前に出た。
「ちょっと待ってください! いくら兄君様たちとはいえ、初見でいきなりのなれなれしい行い、ユリ様の護衛として見過ごすわけにはいきません」
にらみ合う『お兄ちゃん』たちに、スライムの頭痛が少しばかり加速する。
「面倒くせぇことに……」
頭部液を抱える彼の姿さえ目に入らないのか、ヤヲはぐいっと胸を張った。
「知っていますか? 『血の繋がらないお兄ちゃん』の方が価値があるんですよ?」
「だからヤヲ、それ、意味解ってんのかって……」
「解ってますよ。遠くの肉親より近くの他人ってことですよね」
「ドヤ顔するな。間違ってるから」
「だって……だって、私だってお兄ちゃんって呼ばれたいっ!」
ユリがさらに首を傾げる。
「お兄ちゃん」
三人の男達がそのきゅるんっぷりに腰を砕かれ、大地に膝を落とした。
「キカジ、やばいぞ、キンダンな感じがする……」
「ええ、兄上。辛抱タマランです」
崩れ落ちたその輪の中からユリを抱き救ったスライムは裸の美青年達に視線を向ける。
「隠してもしょうがないからズバッと聞いておく。お前ら、ユリがこの城に入ることに異存はねぇんだな?」
二人はドラゴンに戻りながらぐっと親指を突きたてた。
「王位とかは? ややこしいことになるんじゃねぇか?」
二匹のドラゴンが鱗に覆われた顔をへらりと笑顔で歪める。
「ああ、俺の希望職は『自室警備員』だし?」
「ワタクシ、座右の銘は『働いたら負け』でアリマスから?」
割れそうなほどの頭液痛にいよいよ耐えかねたスライムの絶叫が、あたりにこだました。
「お前ら……ちょっとそこに座れええええええええええええええ!」




