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22

 ヤヲは魔王を見送るためにガーゴイルの足元に跪いていた。

 好々爺へと姿を変えた魔王は羽の上から和やかな声を降らせる。

「では、引き続き頼むぞ」

「これ以上の『密告』は無駄だと思いますよ」

 魔王を見上げたヤヲの表情は妙に晴れ晴れとしていた。

「彼は私が『密告者』だと知っています」

「ほう?」

 見下ろす魔王の表情に喜色が広がる。

「ならば密告ではなく『報告』を頼みたい。わしはあれを後継者にと望んでおるでなあ」

「ご子息達は?」

「ふむ、あいつらは問題なかろう。むしろ対外的な問題じゃ。他国のやつらから後ろ指をさされず、優秀な人格が伝播されるように……インジ=ハシ=ユチイに物語を書かせる」

「スラスラ本人には?」

「お前の判断に任せるが極力伏せておけ。あの爺さんの孫じゃぞ。きちんと話をつめてからでないと、逃げ出しかねんからな」

「ユリ様を連れて?」

「ふん、あの子のほうがツンニークを追っていくじゃろうて」

「そうですね。可愛い『脳内妹』のためとあらば、その任も決して辛くはありませんね」

「ヤヲ、お前をユリにつけたのは『正解』だった。ここまでよくあの子を守り育ててくれた。感謝しておるぞ」

「私の方こそ、楽しい日々でした」

「あの子にはもう、『父親』も『お兄ちゃん』も必要ないんじゃろうなあ。こうして見送りにも来てくれん」

「全く、あんなぶよぶよのどこが良いんですかねえ?」

 既に出立の準備も整ったユリの馬車を見る二人は満面の笑顔だ。だが、その中には小さな寂寥が宿っていた……


 魔王を見送ったヤヲが帳をあげて馬車の中を覗き込めば、スライムは布団に包まってぶるぶると震えている。その横にはちょこんと座ったユリ【幼児型】が薬湯の入ったカップから掬ったひとさじを冷まそうと、ふうふうと唇を尖らせていた。

「ううううううう。関節液が痛い、頭液も痛い。ぞくぞくするのにやたらと熱い……死ぬのかなぁ、ユリ、俺、死んじまうのかなぁ……」

 ヤヲはふふんと鼻を鳴らしながら箱馬車クーペに上る。

「風邪ぐらいで死にはしないでしょう」

「風邪……これが風邪……」

「でもおかしいですね。風邪など引かないと豪語していたあなたがあっさりと風邪を引いて、代わりにユリ様の風邪が治った……」

 さじを持つユリの指先が僅かに震える。

「スラスラ、あーん」

 ヤヲが容赦なく言葉を継いだ。

「風邪は人にうつすと治る、と言われているのを知っていますか?」

「ああ? 一晩隣で寝たんだ。そりゃあうつるだろうよ」

「いえ、もっとエロっぽい意味……」

「スラスラ、あーん!」

 ぐいっとさじを押し付けられて、スライムが飛び上がった。

「ちっ! 熱っち!」

 ヤヲはじっとりとユリを見る。

「ユリ様、知っていますか。風邪は人にうつすと……」

「知る、無い」

 微少に頬を赤らめたユリは、ぷいっと横を向いた。



 こうして、スライムの旅は続く……


例によってまた20日ほど間、あきます。

いよいよ魔王城へ、そして……

12月20日ごろの予定です♪

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