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 ミミズが一匹、今一度叫ぶ。

「しぅゃあああああああ!」

 その背後でケウィはガーゴイルを繰って少し高度を下げた。

「さあ、どうする? 素直な子には手荒にしないけど?」

「そりゃあ残念、俺は素直からは程遠いんでな」

 ケンタウロスにしがみつきながらもスライムは強気だ。ユリの顔で片方の唇を上げて微笑めば、愛くるしさがかえって迫力ある凄みに変わる。

「もちろん、大人しく捕まってやる気もねぇぜ?」

 小さな親指と人差し指を構え、自分に向かって鎌首もたげる化蚯蚓に狙いを引き絞る。

「ば~ん」

 ごぱっ!と胸がすくような快音を立てて粘液を垂らすその生き物の頭部が爆ぜた。

「魔法っ?」

「ば~か、魔力なし(スライム)に魔法が使えるかよ。小細工トリックってヤツだ」

「そうか、狙撃か!」

 考古学を修めたケウィには、魔法よりも小さな一点に集中するその破壊力の源が科学ロストテクノロジーによるものだと推測できた。しかし『狙撃手』は?

 周りをぐるりと取り囲む木立を見回した彼は、暗い茂みの中にきらりと銃口の光を見つけて静かに微笑んだ。

「この距離なら狙撃銃スナイパーライフル、それもかなり大型だね? でも大型であるが故の弱点もある。弾の装填時に隙が出来るということだ」

 先ほど頭部を打ちぬかれたワームがピクリと動く。ずる、ずるるっと無様にのたうちながら傷口を押し広げるように新しい頭部が生えた。

「つまり、一匹目は倒せても……」

 たけり狂ったミミズが高く首を上げる。その隙を狙ったかのようにごぱっ!と再び、土臭い肉塊が宙に散らされた。

「二匹目はどうかな?」

 別の一匹がスライムたちを押しつぶすように首を振り下ろす。

「ふん、馬~鹿」

 ごぱ、ごぱ、ごぱっ!

 ご丁寧に体節の一つ一つを弾丸が連続して爆ぜ抜く。魔物が砕けた泥水色の液体を鼻先で浴びながらも、スライムが臆すことは無かった。

「ウチの軍備顧問は優秀でな、弾丸の代わりに魔力を装填することでその点は改良済みだ」

 次々に上がるぬらりと醜い頭部が次々に爆ぜる。

「おまけに弾丸役も兼任だ。あいつの魔力を考えれば、ほぼ無限弾だな」

「ならば!」

 土の表面に禍々しい筋を描きながら、一匹が猛スピードで銃口と思しき方向へ這い進む。

 それがたどり着くよりも早く、ばさりと鷹揚な羽音を響かせてこうもり羽が木立の間から舞い上がった。己に半分だけ流れる魔族の血を存分に解き放ったサケヤは白い肌に漆黒の翼も美しいヴァンパイアの姿となって夜空に浮かぶ。

 その腕に抱えられた隊員Aは大きなライフル銃を提げていた。

 空中に浮き上がる獲物を追ってミミズは大きく体を伸ばす。その脳天をぎりぎりまでひきつけて……ヴァンパイアに抱えられた男はおもむろに懐から抜き放ったリボルバー銃で撃ち抜く。

 悶える魔物の絶命すら確かめることなく、彼らは再び木立の間へと姿を消した。

「もともとガーゴイルを相手にするつもりで組んだシステムだ。的がでかい分、あいつらもやりやすかろうよ」

 スライムは再び指で銃を模り、その銃口をくいっとケウィに向ける。

「さてと、お前みたいに物騒なヤツはここでご退場願おうか」

 そのとき、上空から響き渡る老翁の声。

「待て、スライム。タンマじゃ!」

「魔王? 本当に暇人だな」

 『狩人』と『獲物』の間を遮るように二匹のドラゴンが夜空から舞い降りた。


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