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「ドラゴンか!」

 散らばった布団の中にすっくと立つ首長蜥蜴ドラゴン。堅牢なうろこにかすかな光を反すその大きな生き物は神々しい美しさを感じさせる。

 ただ一般的なドラゴンと違って、彼女の体にはいくつかの大きなブチがあった。ウィプスに照らされて僅かなピンクに染まる白銀地のところどころに、黒と、そして金茶のうろこが島状に模様を描く。背中に生えた小ぶりな羽にも大きなブチ模様が……

 自分より二周りほど小さなスライムがぽかんと見上げる視線をどうとったのだろうか、ユリは布団の一枚を拾い上げて頭に被る。

「恥ずかしい」

 そんなもので大きくなった体の全てを隠せるわけが無い。見えなくなったのは顔と太い首だけだ。はみ出した体はプルプルと羞恥に揺れている。

(頭隠して尻隠さず、だな)

 その様子は強大で逞しい生き物だということを感じさせないほどに愛くるしい。体に散った斑のブチのせいもあって、三毛の子猫のような風情だ。

「ユリ、前にも言っただろ。俺には全てを見せてくれ」

 顔だけを布団からぴょこんと出したユリは上目遣いでスライムを見上げる。

「笑う、無い?」

 大きな首をきゅっと傾げた不安気な仕草は……

(笑うどころか、可愛すぎてやべぇ)

 不埒に走ろうとする自分自身を必死で抑えながら、スライムが布団を引っ張る。

「いいから、見せてみろ」

 ばさっと露になった姿を見て、スライムはとんでもないことに思い当たった。

(いや、このガタイに合うものなんて無いからな、当たり前っちゃあ、当たり前なんだが……)

 いくらうろこで覆われた完全なる竜の姿とはいえ衣一枚身につけていない姿は『裸』だ。そう思えば太い尻尾を後ろ足の間にぺったりと挟み込んで股間を隠しながら、もじもじとしている様子にさえ色気を感じる。尻尾の付け根に向かおうとする視線を抑えるので精一杯だ。

(無駄にエロいな)

 自分を飲み込もうとする劣情を深呼吸で逃してから、スライムは飛び切りに優しい微笑を浮かべた。

「随分と可愛らしい姿だな」

「可愛い、無い。ドラゴン、斑、みっともない」

「確かに珍しい毛色だ。だが、可愛いと思うぞ」

「真実?」

「ああ本当だ。もっとも俺から見て、だがな。お前は俺にとっちゃあ……う~いっくしょいいっ!」

「風邪?」

 気遣いの鼻先でスライムに触れたユリが、その体の冷たさに驚いてきゅっと首をすくめる。

「すまねぇ。川で体を洗ったからな。冷たかったろう?」

 大きな口からチョロっと覗いた牙が布団をまとめて咥え上げ、スライムにばさばさと被せた。

「おい、何をしてんだ」

 ユリは隣にもぐりこんで冷え切った体を抱きしめる。

「冷たい、気持ち良い」

 熱っぽい額を擦り付ける柔らかい仕草に、スライムの外皮は一気に真っ赤に染まった。

(やばい、これはやばいぞ……)

 ほてほてと柔らかい布団の中で擦り付けあう肌を遮るものは何も無い。熱い体を無防備に預けるドラゴンは姿こそいつもとは違っても愛する女。

(少なくとも幼児型ガキじゃないんだし、そういうのも有りか)

 スライムは両腕液を伸ばして女の大きな両頬を包んだ。


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