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――そして、彼の旅は始まる。

 林の中を歩くヤヲがユリをしっかりと抱えているのは、後ろからついてくるスライムへの牽制だろう。

「……では、ユリ様とは何も無かったんですね。」

「当たり前だろ。あってたまるかよ。」

 先ほどから繰り返していた説明は、やっとヤヲの誤解を解くに至ったようだ。

「解りました。ユリ様が言葉たらずなのはいつものこと。今回は収めておきましょう。」

「いや、お前の妄想に振り回された気もするんだが?」

「……。で、これからどうするんです?」

 ユリが、ヤヲの腕の中からスラスラを見下ろした。

「一緒、居る。」

「ああ、そんな約束したな。」

「着いてくるのなら、、副護衛長の座が空きましたけど?」

「やだよ。下の面倒も見て、お前のサポートして……一番面倒臭ぇポジションじゃねえか。」

 スライムはぶるりと体を揺すった。

「それに、ぽっと出の、しかもスライムなんかがいきなり上に立ったら、人間関係だって面倒臭いことになるだろ? 俺は嫌だぞ。」

「じゃあ、見習したっぱいから始めますか?」

「スライムに与えられる階級って言えば、『寝台』だろうがよ。」

「そんな階級! 歴史書でしか見たことありませんよ。」

「そうか? そもそもこの階級は、初代クコリデ=ノーニウィヨ王が自分のスライムに与えたのが始まりだとも言われていてな。八代のラクイェホ王の頃には……」

「……あなた、本当は何者なんですか。」

「はあ? ただのスライムだよ、俺は。」

「それだけの学と才を持ちながら、ただの……」 

「しいっ!」

 がさごそと草分ける足音がして、一頭のギガントが飛び出してきた。

敗残兵いきのこりですかっ!」

「やめろ、ヤヲ! 相手は手負いの獣と同じだ。出方を見ろ!」

 怯えきった巨体とカチリと目が合った瞬間、スライムの脳液を奇妙な感覚が揺する。

(ユリは、俺をどう思っているんだ? 少なくとも、嫌いではなさそうだが……)

 おまけに、あの小さな姿が仮のものだということを、スライムは既に知っている。

(婚姻とか、責任とか、むしろ好意? 好意なのか?)

 だとしたら、この先ユリと『そういう展開』もアリ? いや、むしろ、あって欲しい! 妄想の嵐に吹き揺らされて、もはやスラスラの意識はギガントのある一点のみに集中していた。

(アレだけのギガントな体だ。あの腰布ぱんつの下にはさぞやギガントな……)

 ふらりと揺れながら、スライムは柔らかい外皮をぐぐぐっと突っ張った。

「ヤヲ。昔、ある賢者が言った……大は小を兼ねる。でっかいことは良い事だ……と。」「スラスラ? 一体、何を!」

「ユリの目を、しっかり塞いでおけよおおおおおお!」

 雄たけびを上げながら、巨大に膨れ上がった柔らかい生き物がギガントの巨体を飲み込んでゆく。

……ずるっ、ずるるる……うエえええっ!

 ヤヲの両手にしっかりとガードされたユリの目の前で、気を失った巨体を吐き出した彼は、一体の裸体のギガントへと姿を変えた。

「ギガント、ギガント~♪」

 鼻歌混じりに自分の股間を見下ろした彼は、そのあまりに凶悪な様に凍りつく。

「みっ、ミニマムっ?」

 どのくらいかというと、一部始終を見ていたヤヲが、

「男は……大きさじゃありませんよ。」

 心底からの慰めをを言うほどに……

「くっそ~。」

 忌々しく元の姿に戻った彼に、ヤヲの手を振り解いてユリが駆け寄った。

「スラスラ、何、した?」

「別に、何もしてねえよ。」

「イケメン値、3000、希望。」

「俺がヤヲをトレースしたのは知ってるだろ? 十分にイケメンじゃねえか。」

「ヤヲ、1000イケメン。」

「はあ? だから、それ、何基準だよ!」

 スライムは、半ばヤケになってグイと体を張った。

「その、3000イケメンってやつになればいいんだろ! なってやるよ!」

 ユリの小さな体が、ぽふんと音を立ててスラスラの弾力の中に飛び込む。

「待つ。」


 こうして、スライムの冒険は始まる……

 


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